荒廃した世界で、君と非道を歩む
志筑を殺人鬼に仕立て上げたのは、紛れもないこの腐った世界だと言うのに馬鹿げた話だ。世界から見放されて放浪する身で、英雄だとか救うだとか馬鹿馬鹿しくて笑える。
それなのに、笑う気にはなれなくて代わりに志筑の首を締める手に力を込める。どれだけ力を入れても、志筑は苦しむ素振りの一つも見せなかった。それが憎たらしく、そして虚しい。
「私、私、あんたに出会ってやっと生きる意味を見つけた。あんたが蘭って名前をいいって言ってくれて、私のことを見てくれて嬉しかった……。あんたといられるなら何処へだって行く。この荒廃した世界であんたと非道を歩んだっていい。私にとってあんたは……理想で、神様みたいで、大事なの!!」
涙混じりに叫べば、志筑はゆっくりと顔を動かした。風で靡いた前髪から志筑の釣り上がった鋭い目が見える。
傍から見れば鋭くて怖がられる目も、蘭からすれば美しくて綺麗な目に見える。この瞳には紛れもない自分が映っているのだ。
また、志筑の瞳に自分が映った。嬉しいはずなのに、幸せなはずなのに、零れ落ちる涙と共に出てくるのは本心とは違う言葉ばかり。
「志筑にとって……私は邪魔? まだ子供だから? 何も知らないから? ねえなんで、なんで突き放そうとするの……」
目から零れ落ちた涙が志筑の頬の上に落ちる。志筑は傷がある頬の上に落ちた蘭の涙をそっと指先で拭った。
その仕草を見て首から手を離すと、それまで志筑の首を絞めていた手はカタカタと小刻みに震えていた。きっと掴んでる間も震えていたのだろう。
志筑の白い首には何の跡も付いていない。成人男性の首を非力な蘭が締め上げることなど不可能に近かった。ましてや殺す気もなかったのだから無理な話だ。
止め処無く溢れる涙が伝う頬に、そっと骨張った手が触れた。
「邪魔なら、あん時にお前を連れてったりなんかしてねえよ。ただ、お前に非道に手を染めさせたくないんだ。手を汚すのは俺だけでいい」
誰に反対されようが、邪魔されようが志筑と一緒にいる。一度手に入れたこの出会いを、時間を手放すことなどできるわけがないのだから。
志筑の頬に触れる手を握ればまた震えていた。志筑の手が震えているのか蘭の手が震えているのか、それはどちらにも分からない。
人間なのだから怖いものがあって当然、殺人鬼なのだから怖いものがないという方がおかしな話だ。
きっと志筑が殺人鬼だから、自分は今こうして共にいることを望んだ。もし志筑が殺人鬼などではなかったら、初めから出会うことすらなかっただろう。
志筑は殺人鬼だから、いつか自分を殺してくれるという淡い期待が蘭を突き動かす。
涙で歪む視界に志筑を映し、彼の顔にある傷に触れた。すると志筑は微かに顔を歪めた。
「痛い?」
「いや痛くねえよ」
「でもしかめっ面になってる」
強がっているのか、蘭を手を掴んで傷口に触れるように自身の頬に手を押し付けた。
それなのに、笑う気にはなれなくて代わりに志筑の首を締める手に力を込める。どれだけ力を入れても、志筑は苦しむ素振りの一つも見せなかった。それが憎たらしく、そして虚しい。
「私、私、あんたに出会ってやっと生きる意味を見つけた。あんたが蘭って名前をいいって言ってくれて、私のことを見てくれて嬉しかった……。あんたといられるなら何処へだって行く。この荒廃した世界であんたと非道を歩んだっていい。私にとってあんたは……理想で、神様みたいで、大事なの!!」
涙混じりに叫べば、志筑はゆっくりと顔を動かした。風で靡いた前髪から志筑の釣り上がった鋭い目が見える。
傍から見れば鋭くて怖がられる目も、蘭からすれば美しくて綺麗な目に見える。この瞳には紛れもない自分が映っているのだ。
また、志筑の瞳に自分が映った。嬉しいはずなのに、幸せなはずなのに、零れ落ちる涙と共に出てくるのは本心とは違う言葉ばかり。
「志筑にとって……私は邪魔? まだ子供だから? 何も知らないから? ねえなんで、なんで突き放そうとするの……」
目から零れ落ちた涙が志筑の頬の上に落ちる。志筑は傷がある頬の上に落ちた蘭の涙をそっと指先で拭った。
その仕草を見て首から手を離すと、それまで志筑の首を絞めていた手はカタカタと小刻みに震えていた。きっと掴んでる間も震えていたのだろう。
志筑の白い首には何の跡も付いていない。成人男性の首を非力な蘭が締め上げることなど不可能に近かった。ましてや殺す気もなかったのだから無理な話だ。
止め処無く溢れる涙が伝う頬に、そっと骨張った手が触れた。
「邪魔なら、あん時にお前を連れてったりなんかしてねえよ。ただ、お前に非道に手を染めさせたくないんだ。手を汚すのは俺だけでいい」
誰に反対されようが、邪魔されようが志筑と一緒にいる。一度手に入れたこの出会いを、時間を手放すことなどできるわけがないのだから。
志筑の頬に触れる手を握ればまた震えていた。志筑の手が震えているのか蘭の手が震えているのか、それはどちらにも分からない。
人間なのだから怖いものがあって当然、殺人鬼なのだから怖いものがないという方がおかしな話だ。
きっと志筑が殺人鬼だから、自分は今こうして共にいることを望んだ。もし志筑が殺人鬼などではなかったら、初めから出会うことすらなかっただろう。
志筑は殺人鬼だから、いつか自分を殺してくれるという淡い期待が蘭を突き動かす。
涙で歪む視界に志筑を映し、彼の顔にある傷に触れた。すると志筑は微かに顔を歪めた。
「痛い?」
「いや痛くねえよ」
「でもしかめっ面になってる」
強がっているのか、蘭を手を掴んで傷口に触れるように自身の頬に手を押し付けた。