荒廃した世界で、君と非道を歩む
突然笑い出したことで、目の前の人物は微かに身を引いて不審げな目を向けた。お前の方がよっぽど怪しいだろうと言ってやりたかったが、そんな言葉は喉元でつかえて出ない。
怖いはずなのに、絶望しているはずなのに、何故か目の前が明るかった。それは照明があるわけでも日が差し込んでいるからでもない。
この男が輝いて見えたのだ。ずっと追い求めていた刺激的な出会い、それに値する人物が目の前にいる。
「ねえ、私を連れて行って」
自分でも何を言っているのか分からなかった。
目の前の人物から呼吸音が消え、辺りには静寂が流れ出す。静かな空間には錆びついた鉄の如き血の匂いが漂っていた。
「何処でもいいから、私をここから遠く離れた場所に連れて行って」
「てめぇ、いきなり何言ってやがる」
微かに身を退けた男のナイフを握る手を掴み、ぐっと力を込める。何も食べていない、何も飲んでいない身体に力などあるはずがなく、どれだけ力を込めてもその手からナイフを奪い取ることはできなかった。
目の前の男は傷だらけの顔を向け、おかしなものを見る目で見つめてくる。血が付いたナイフを向けられているというのに動揺する様子を見せないのだから、向こう側が狼狽するのは最もであった。
決して手を握る力を緩めること無く、相手に逃げる隙を与えないようその鋭い目を見つめ続ける。
「あんた、ニュースで話題になってる殺人鬼だよね」
確信を持ってそう言えば、ずっと黙り込んでいた男が微かに動きを見せた。大方、図星だったのだろう。
直接言うことは憚られたため少しばかり濁して言ったが、話題だなんてそんないいものでは無い。
何故なら、目の前にいるのは、連日ニュースでも取り上げられている連続殺人事件の犯人なのかもしれないのだ。
それでもこの状況では自分の方に分がある。この男にとって、自分の罪を知られているというのは不利であった。
「一体何人殺したの? 殺した人達に対して、あんたは何を思ったの?」
点滅する蛍光灯が逆光になり男の顔に影を落とす。影の中に潜む琥珀色の二つの目が、怒りと憎しみの色を綯い交ぜにして睨み付けてきた。
その目を見つめたまま、男が問いに答える時を待つ。たとえ答えることがないとしても、やっと見つけた理想を手放す気はなかった。
そう、ようやく見つけたのだ。ずっと追い求めていた理想の人物。
この男ならば自分を殺してくれる。握り締めた血に塗れるそのナイフで、先程殺した人間のように切り刻んでくれることだろう。
何処か遠い場所で、誰にも知られずこの世界から消えるには、この男に付いて行くべきだと誰かが囁いているのだ。
男の目を見ていると正常な判断力が鈍っていく。今まさに、常識では考えられない発言をしているのだから。
怖いはずなのに、絶望しているはずなのに、何故か目の前が明るかった。それは照明があるわけでも日が差し込んでいるからでもない。
この男が輝いて見えたのだ。ずっと追い求めていた刺激的な出会い、それに値する人物が目の前にいる。
「ねえ、私を連れて行って」
自分でも何を言っているのか分からなかった。
目の前の人物から呼吸音が消え、辺りには静寂が流れ出す。静かな空間には錆びついた鉄の如き血の匂いが漂っていた。
「何処でもいいから、私をここから遠く離れた場所に連れて行って」
「てめぇ、いきなり何言ってやがる」
微かに身を退けた男のナイフを握る手を掴み、ぐっと力を込める。何も食べていない、何も飲んでいない身体に力などあるはずがなく、どれだけ力を込めてもその手からナイフを奪い取ることはできなかった。
目の前の男は傷だらけの顔を向け、おかしなものを見る目で見つめてくる。血が付いたナイフを向けられているというのに動揺する様子を見せないのだから、向こう側が狼狽するのは最もであった。
決して手を握る力を緩めること無く、相手に逃げる隙を与えないようその鋭い目を見つめ続ける。
「あんた、ニュースで話題になってる殺人鬼だよね」
確信を持ってそう言えば、ずっと黙り込んでいた男が微かに動きを見せた。大方、図星だったのだろう。
直接言うことは憚られたため少しばかり濁して言ったが、話題だなんてそんないいものでは無い。
何故なら、目の前にいるのは、連日ニュースでも取り上げられている連続殺人事件の犯人なのかもしれないのだ。
それでもこの状況では自分の方に分がある。この男にとって、自分の罪を知られているというのは不利であった。
「一体何人殺したの? 殺した人達に対して、あんたは何を思ったの?」
点滅する蛍光灯が逆光になり男の顔に影を落とす。影の中に潜む琥珀色の二つの目が、怒りと憎しみの色を綯い交ぜにして睨み付けてきた。
その目を見つめたまま、男が問いに答える時を待つ。たとえ答えることがないとしても、やっと見つけた理想を手放す気はなかった。
そう、ようやく見つけたのだ。ずっと追い求めていた理想の人物。
この男ならば自分を殺してくれる。握り締めた血に塗れるそのナイフで、先程殺した人間のように切り刻んでくれることだろう。
何処か遠い場所で、誰にも知られずこの世界から消えるには、この男に付いて行くべきだと誰かが囁いているのだ。
男の目を見ていると正常な判断力が鈍っていく。今まさに、常識では考えられない発言をしているのだから。