荒廃した世界で、君と非道を歩む
全部がどうでも良くて、大嫌いで、全部消えてしまえばいいと思っていた。
けれど、志筑と過ごした時間が全ての悪をどうでもいいと思わせてくれたのだ。あの雨が降る夜、志筑が薄いタオルを差し出してくれたから、三日月を背にして誓ってくれたから、今も生きてみようと思えたのだ。
「ありがとう、志筑。私を守ってくれて」
人殺しに感謝を伝えるなどおかしな話だが、志筑にはこれまでに感謝しきれないほど多くのものを与えられてきた。
生きる楽しさ、世界の広さ、誰かに必要とされる喜び、誰かと一緒にいる時間の温かさ、全て志筑と出会ったから知ることができたのだ。
「人殺しでも、社会不適合者でも、私は志筑に生きていてほしい。一緒にいてほしいって思うよ」
心の底から溢れ出る想いを言葉にして目の前の運命の人に伝える。彼にだけは、本心を包み隠さず素直に伝えることができた。
かつて自身を何度も守ってくれた人。彼が人を殺すのは、蘭を守るためであった。
志筑は誓ってくれた。その琥珀色の瞳を真っ直ぐと蘭に向けて、誓った。
だから、志筑が誓ったように蘭も誓う。もう二度と、何があっても逃げない。ずっと志筑の傍にいると。
「本当にいいんだな。俺と一緒にいたら、お前まで共犯者になるぞ」
「私が誘拐されそうになったあの日、志筑が人を殺したのに誰にも言わなかったんだよ。その時点で私は共犯者と変わらない」
「しかも、今じゃあ忘れてるんだもんな」
「それは悪かったよ。だって、あんな事があったのに次に目を覚ましたのは自分家のベッドの上だったんだもん。あっ、そうだ」
「ん?」
自分で一定でどうして気にならなかったのだろう。これまでの話にはおかしな部分があった。
「なんで、私は自分の家で目覚めたの? 志筑って私の家知らないよね?」
「ああ、それは」
志筑は布団の上に立つと、窓の前まで移動し扉に手を掛ける。鍵を開けて扉を開くと、外からのひんやりとしたそよ風が部屋の中に入ってきた。
「俺が直接警察署に行ったから」
「……私を連れて? 逃げないで、自分から捕まりに行ったの?」
振り返った志筑はそよ風に髪を靡かせながら静かに頷いた。やけに優しく笑う彼だが、蘭の表情からは先程の笑みが消える。
志筑の言っていることが理解できなかったのだ。気絶した自分など連れて行かず、一人で逃げれば少年院に入ることなどなかったであろうに。
「お前を置いて行くって選択肢がそん時の俺にはなかったんだよ。だって、お前は俺のこと探してたんだろ? 随分と懐いていた“お兄ちゃん”がいなくなって不安になったから」
ぶわわっと顔が熱くなるのを感じる。そうだった、当時の自分は志筑の名前など知るはずもなく、年上であることと兄が欲しかったという理由で志筑のことを“お兄ちゃん”と呼んでいたのだった。
揶揄うように笑う志筑は随分と楽しそうだ。数年ぶりに出会った時は、死んだ魚の目をしていて、服装も相まって怪しげだった。尚且つ口は悪いわほとんど笑わないわで感情がないのかとも思うほどだった。
けれど、二人で逃避行を始めてから志筑は何度も笑うようになった。彼にも感情はあるのだ。彼も人間なのだから。
「日が昇ってきたな。そろそろ行かねぇと」
「そうだね。ずっとここにいるわけにはいかないしね」
互いの正反対な瞳を見つめ合う。志筑の目は綺麗だ。光を失った黒曜石の如く闇に染まった自分の目と違って、志筑の目は光など無くても月のように輝いている。蘭にはそう見えた。
『死に場所を探しに』
けれど、志筑と過ごした時間が全ての悪をどうでもいいと思わせてくれたのだ。あの雨が降る夜、志筑が薄いタオルを差し出してくれたから、三日月を背にして誓ってくれたから、今も生きてみようと思えたのだ。
「ありがとう、志筑。私を守ってくれて」
人殺しに感謝を伝えるなどおかしな話だが、志筑にはこれまでに感謝しきれないほど多くのものを与えられてきた。
生きる楽しさ、世界の広さ、誰かに必要とされる喜び、誰かと一緒にいる時間の温かさ、全て志筑と出会ったから知ることができたのだ。
「人殺しでも、社会不適合者でも、私は志筑に生きていてほしい。一緒にいてほしいって思うよ」
心の底から溢れ出る想いを言葉にして目の前の運命の人に伝える。彼にだけは、本心を包み隠さず素直に伝えることができた。
かつて自身を何度も守ってくれた人。彼が人を殺すのは、蘭を守るためであった。
志筑は誓ってくれた。その琥珀色の瞳を真っ直ぐと蘭に向けて、誓った。
だから、志筑が誓ったように蘭も誓う。もう二度と、何があっても逃げない。ずっと志筑の傍にいると。
「本当にいいんだな。俺と一緒にいたら、お前まで共犯者になるぞ」
「私が誘拐されそうになったあの日、志筑が人を殺したのに誰にも言わなかったんだよ。その時点で私は共犯者と変わらない」
「しかも、今じゃあ忘れてるんだもんな」
「それは悪かったよ。だって、あんな事があったのに次に目を覚ましたのは自分家のベッドの上だったんだもん。あっ、そうだ」
「ん?」
自分で一定でどうして気にならなかったのだろう。これまでの話にはおかしな部分があった。
「なんで、私は自分の家で目覚めたの? 志筑って私の家知らないよね?」
「ああ、それは」
志筑は布団の上に立つと、窓の前まで移動し扉に手を掛ける。鍵を開けて扉を開くと、外からのひんやりとしたそよ風が部屋の中に入ってきた。
「俺が直接警察署に行ったから」
「……私を連れて? 逃げないで、自分から捕まりに行ったの?」
振り返った志筑はそよ風に髪を靡かせながら静かに頷いた。やけに優しく笑う彼だが、蘭の表情からは先程の笑みが消える。
志筑の言っていることが理解できなかったのだ。気絶した自分など連れて行かず、一人で逃げれば少年院に入ることなどなかったであろうに。
「お前を置いて行くって選択肢がそん時の俺にはなかったんだよ。だって、お前は俺のこと探してたんだろ? 随分と懐いていた“お兄ちゃん”がいなくなって不安になったから」
ぶわわっと顔が熱くなるのを感じる。そうだった、当時の自分は志筑の名前など知るはずもなく、年上であることと兄が欲しかったという理由で志筑のことを“お兄ちゃん”と呼んでいたのだった。
揶揄うように笑う志筑は随分と楽しそうだ。数年ぶりに出会った時は、死んだ魚の目をしていて、服装も相まって怪しげだった。尚且つ口は悪いわほとんど笑わないわで感情がないのかとも思うほどだった。
けれど、二人で逃避行を始めてから志筑は何度も笑うようになった。彼にも感情はあるのだ。彼も人間なのだから。
「日が昇ってきたな。そろそろ行かねぇと」
「そうだね。ずっとここにいるわけにはいかないしね」
互いの正反対な瞳を見つめ合う。志筑の目は綺麗だ。光を失った黒曜石の如く闇に染まった自分の目と違って、志筑の目は光など無くても月のように輝いている。蘭にはそう見えた。
『死に場所を探しに』