荒廃した世界で、君と非道を歩む
繋いでいたくて
薄暗い廊下に革靴の甲高い足音が響き渡る。首に下げていたカードキーを機械に翳し、開いた扉から中へと歩みを進める。
コの字に並べられたデスクには二人のスーツを着た男達が座っていた。その内の一人が顔を上げ、こちらに気が付くと待ってましたとばかりに歩み寄ってくる。
「東さん、待ってましたよ」
「圓堂か。どうした」
「僕達が担当していた連続猟奇殺人鬼のことなんですがね、近頃パッタリと被害が無くなっているんですよ」
「ああ、確かにな。だが、そんなに慌てることか? 被害が無くなっているのならいいことではないか」
慌てた様子の圓堂にそう言うと、それまで物腰が柔らかく穏やかな雰囲気を醸し出していたのに様子が変わった。
表情が厳格なものになり、一度背を向けた圓堂は自身のデスクから数枚の書類を手に取る。
「これを見てください」
東は圓堂に差し出された書類を受け取り、ざっくりと内容に目を通す。近頃、巷を騒がせていた連続猟奇殺人鬼に関する書類と被害者達の書類、そして行方不明となっている少女の書類である。
「十七歳の少女が行方不明? 連続猟奇殺人鬼による被害が無くなった日と同じ日から行方不明になっているな」
「こんなに若いのに捜索願が出されていない。少なからず家庭環境に難アリって感じがしたんで、個人的に調べてみたんですよ」
「何か分かったのか」
「その二人、一緒にいるみたいっすよ」
東が問いかけると、答えたのは圓堂ではなく、彼の向かいのデスクに座ってパソコンを眺めていた新島であった。
新島はパソコンから目を逸らし、椅子の背もたれに深くもたれ掛かって天井を見上げた。何ともだらけた様子に東は怒りを覚えるが、今は彼の態度に口を挟む気力はない。
それよりも気になるのは、新島の発言である。
「一緒にいる? この殺人鬼と行方不明の少女がか?」
「街外れに元芸能スタジオが入っていた廃墟ビルがあるでしょう? そこに元々殺人鬼が入り浸っていたらしくて、その子があとから何度か出入りするところを見たっていう情報が入っているんすよ」
「つまり、この殺人鬼はこの少女を誘拐したということだろうか」
「さあ、それはどうでしょう。俺等が分かったのはこれくらいのことっす」
「流石に情報が少なすぎるな。これでは警察は動きたくても動けん」
「まあでも、その殺人鬼のことについては“先輩”の方がよく知っているんじゃあないですかい?」
新島の小馬鹿にするような発言が癪に障るのはいつものことである。普段の東ならば別段相手にすること無く無視したことだろう。
しかし、東は新島の発言に微かな怒りを覚えた。新島は東が起こるようにわざと言ったのである。
「今更、先輩と言うな」
「先輩も酷いっすよねぇ。こんなにも忠誠を誓っていた部下を捨てて、田舎町に帰っちまったんすから」
「新島!」
「まあまあ、二人とも喧嘩しないでください。今は先輩のことよりも、この殺人鬼のことが優先ですよ」
今にも新島に掴み掛かろうとしていた東だが、圓堂の言葉で動きを止める。少しばかり冷静になった頭で状況を整理し、優先であるのは圓堂の言う通り殺人鬼のことであると判断した。
「次おかしなことを言えばただですまんぞ」
「へいへーい」
部屋を出ていく東の後ろ姿を眺める新島は、彼の見えないところで不敵にも笑ってみせた。その仕草を見ていた圓堂は不信感に表情を歪める。
「どうしてあんな挑発するようなことを言ったんです?」
「本当に気づいていないのか、それとも気づかないふりをしているのか。自分が信じていた先輩が自分の恨む相手を擁護したと知れば、頑固な東さんだって先輩を恨むかと思ったけど」
再び椅子にもたれ掛かる新島は、ぼんやりと天井を眺めて呟く。
「やっぱり、そう簡単に忠誠心は消えないか」
コの字に並べられたデスクには二人のスーツを着た男達が座っていた。その内の一人が顔を上げ、こちらに気が付くと待ってましたとばかりに歩み寄ってくる。
「東さん、待ってましたよ」
「圓堂か。どうした」
「僕達が担当していた連続猟奇殺人鬼のことなんですがね、近頃パッタリと被害が無くなっているんですよ」
「ああ、確かにな。だが、そんなに慌てることか? 被害が無くなっているのならいいことではないか」
慌てた様子の圓堂にそう言うと、それまで物腰が柔らかく穏やかな雰囲気を醸し出していたのに様子が変わった。
表情が厳格なものになり、一度背を向けた圓堂は自身のデスクから数枚の書類を手に取る。
「これを見てください」
東は圓堂に差し出された書類を受け取り、ざっくりと内容に目を通す。近頃、巷を騒がせていた連続猟奇殺人鬼に関する書類と被害者達の書類、そして行方不明となっている少女の書類である。
「十七歳の少女が行方不明? 連続猟奇殺人鬼による被害が無くなった日と同じ日から行方不明になっているな」
「こんなに若いのに捜索願が出されていない。少なからず家庭環境に難アリって感じがしたんで、個人的に調べてみたんですよ」
「何か分かったのか」
「その二人、一緒にいるみたいっすよ」
東が問いかけると、答えたのは圓堂ではなく、彼の向かいのデスクに座ってパソコンを眺めていた新島であった。
新島はパソコンから目を逸らし、椅子の背もたれに深くもたれ掛かって天井を見上げた。何ともだらけた様子に東は怒りを覚えるが、今は彼の態度に口を挟む気力はない。
それよりも気になるのは、新島の発言である。
「一緒にいる? この殺人鬼と行方不明の少女がか?」
「街外れに元芸能スタジオが入っていた廃墟ビルがあるでしょう? そこに元々殺人鬼が入り浸っていたらしくて、その子があとから何度か出入りするところを見たっていう情報が入っているんすよ」
「つまり、この殺人鬼はこの少女を誘拐したということだろうか」
「さあ、それはどうでしょう。俺等が分かったのはこれくらいのことっす」
「流石に情報が少なすぎるな。これでは警察は動きたくても動けん」
「まあでも、その殺人鬼のことについては“先輩”の方がよく知っているんじゃあないですかい?」
新島の小馬鹿にするような発言が癪に障るのはいつものことである。普段の東ならば別段相手にすること無く無視したことだろう。
しかし、東は新島の発言に微かな怒りを覚えた。新島は東が起こるようにわざと言ったのである。
「今更、先輩と言うな」
「先輩も酷いっすよねぇ。こんなにも忠誠を誓っていた部下を捨てて、田舎町に帰っちまったんすから」
「新島!」
「まあまあ、二人とも喧嘩しないでください。今は先輩のことよりも、この殺人鬼のことが優先ですよ」
今にも新島に掴み掛かろうとしていた東だが、圓堂の言葉で動きを止める。少しばかり冷静になった頭で状況を整理し、優先であるのは圓堂の言う通り殺人鬼のことであると判断した。
「次おかしなことを言えばただですまんぞ」
「へいへーい」
部屋を出ていく東の後ろ姿を眺める新島は、彼の見えないところで不敵にも笑ってみせた。その仕草を見ていた圓堂は不信感に表情を歪める。
「どうしてあんな挑発するようなことを言ったんです?」
「本当に気づいていないのか、それとも気づかないふりをしているのか。自分が信じていた先輩が自分の恨む相手を擁護したと知れば、頑固な東さんだって先輩を恨むかと思ったけど」
再び椅子にもたれ掛かる新島は、ぼんやりと天井を眺めて呟く。
「やっぱり、そう簡単に忠誠心は消えないか」