魔法使い時々王子
温室は冬の外気を忘れさせるほど柔らかな空気に包まれていた。
シドは棚に並ぶ薬草の鉢を点検していたが、気配を感じて振り返る。

「……アリス?」

扉の前に立っていたのは、少し肩を落とした王女だった。
アリスは小さく息を吐き、椅子に腰を下ろす。

「お茶会から……逃げてきちゃったの。あまりに疲れてしまって」

シドは淡々と「そうか」とだけ言う。問い詰めも慰めもない。その素っ気なさに、アリスは思わず口元を緩めてしまった。

「ふふっ……あなたって本当に変わらないわね」

彼女の笑みに、シドは首を傾げるだけだ。
アリスは肩をすくめ、けれど続ける。

「でもね、エミリーが上手に取り計らってくれたの。あの子がいなかったら、ずっと席を立てなかったと思うの」
その言葉を口にするうちに、自然と笑みがこぼれた。

シドはただ頷くだけだったが、アリスは視線を逸らさずに彼を見つめる。

「ねえ、シドもそう思うでしょう? エミリーって、とても頼りになるの」

甘えるような声音に、彼はほんの少しだけ眉を上げて、短く答えた。
「……そうだな」

それだけのやり取りなのに、アリスの胸は温かく満たされていく。
――気を張らずに笑える自分がいる。そんな場所は、王宮の中でもこの温室と、この人の前だけだった。

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