魔法使い時々王子
「……セオと、離縁するってこと?」

アリスの問いに、シドは静かに頷いた。

「……でも、そんなことをしたら……ミロは他国から攻められる……」

かすれた声で言う。

「ああ」

シドは迷いなく答えた。

「ミロ王国の軍事力では、他国に太刀打ちできない。だから——別の国が援助する」

「……アスタリト王国だ」

「アスタリト……」

アリスの瞳が揺れる。

それは——シドの、故郷。

「ルイ王子と……俺の兄であるジルが、内密にやり取りをしていた」

「今後、ミロ王国を守るのはアスタリトになる」

静かに告げられる現実。

だがアリスは、はっと息を呑んだ。

「で、でも……その見返りは……?」

首を横に振る。

「何もなしに守るなんて……いくら大国でも、そんなこと……」

その言葉を、シドが遮った。

「……俺だ」

「え……?」

「俺が——アスタリト王国の第二王子として戻ること。それが条件だ」

その言葉は、重く落ちた。

アリスは思わず喉を鳴らす。

「……そんな……」

シドは今、魔法使いとして生きている。
その仕事に誇りを持っていることも、アリスは知っている。

それを——捨てて、王族に戻る。

「……もう一つ、条件がある」

シドは静かに続けた。

アリスは息を呑み、彼を見つめる。

「アリスがセオと離縁した後……どこへ行く?」

「……え」

予想していなかった問いに、言葉が詰まる。

「イスタリアに戻る気はないだろう」

「……当然よ」

小さく、しかしはっきりと答える。

「でも……ミロ王国にいるわけにもいかない……」

視線が揺れる。

「……そうね。いっそ、全く知らない土地に行くのも……」

ぽつりと、零すように言った。それは——逃げではなく、本気でそう考えた言葉だった。

「だめだ」

即座に、強い声が返る。

「そんなことは、させない」

まっすぐに見据えられる。

「……アリス」

その名を呼んだ瞬間——

シドは、ゆっくりとその場に膝をついた。
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