魔法使い時々王子
「兄さんが……何を提案してきたの……?」

アリスの声は、わずかに揺れていた。

——兄とは、決して仲の良い兄妹ではなかった。

幼い頃から、兄は次期国王として扱われ、周囲の視線も、言葉も、すべてが違っていた。

自分は常に、その“次”。

そして兄が結婚し、子が生まれてからは——
もう、その位置ですらなかった。

忘れられていく存在。

(……私、ずっと兄のこと、羨んでいたのかもしれない……)

アリスは小さく息を飲み、シドを見つめた。

シドは静かに言葉を続ける。

「……恐らく、ミロ王国はこのまま星晶をイスタリアに渡すことはしない」

低く、落ち着いた声だった。

「国王は最終通告として、星晶を渡さなければ——アリスとセオ王子の離縁を要求するつもりだ」

「……っ」

アリスの表情が強張る。

「それに加えて、これまでミロを守ってきた軍事的支援も打ち切る」

淡々と告げられる現実。

だが、その一つ一つが重くのしかかる。

「……そうなれば、ミロは他国からの侵攻を受ける可能性が高い。今まで、イスタリアという大国に守られていたからな」

静寂が落ちる。

重く、息が詰まるような沈黙。

「……だから国王は、ミロが最終的に星晶を差し出すと踏んでいる」

シドの言葉に、迷いはなかった。

ただ事実として、そこにあるものを並べている。

そして——

わずかに間を置いてから、続けた。

「……だが、皇太子殿下の提案は違う」

アリスの瞳が揺れる。

「それを——受け入れるよう、進言しろと」

「……え……?」

一瞬、意味を理解できなかった。

だが次の瞬間、その言葉の重みが遅れて押し寄せる。

アリスは、言葉を失った。

ただ、驚きに目を見開いたまま——

しばらく、何も言えずに立ち尽くしていた。
< 317 / 319 >

この作品をシェア

pagetop