魔法使い時々王子
夕食を終えたアリスは、部屋で少し気持ちを落ち着かせると、セオの執務室へ向かった。

今夜は会食もなく、セオは執務室で書類仕事をしているはずだった。

執務室の前まで来ると、アリスは足を止める。

胸の前で手を重ね、大きく深呼吸をした。

――大丈夫。

そう自分に言い聞かせた、その時だった。

「アリス様。」

背後から声が聞こえた。

振り返ると、ノエルが静かに立っていた。

「ノエル……どうしたの?」

「王妃様から、ご伝言をお預かりしております。」

「お義母様から?」

アリスが首をかしげると、ノエルは一歩近づき、いつもの穏やかな笑みを浮かべた。

「『美味しいお茶が飲みたくなったら、いつでもいらっしゃい。』とのことです。」

「お茶……?」

あまりにも唐突な伝言に、アリスは思わず目をぱちぱちと瞬かせた。

どうして今、このタイミングでそんな言葉を……。

意味を考えても答えは出ない。

「え、ええ……分かったわ。」

アリスがそう答えると、ノエルは小さく一礼した。

「それでは、失礼いたします。」

静かにその場を後にするノエルを見送りながら、アリスはぽつりと呟く。

「……何だったのかしら。」

首を傾げながらも気持ちを切り替え、再び執務室の扉へ向き直る。

そして、もう一度だけ深呼吸をすると、静かに扉をノックした。
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