魔法使い時々王子
夜も更け、仮面舞踏会の熱気は高まっていた。
誰が誰だか分からない。名前も、地位も、立場も関係ない。
だからこそ、この夜にだけ咲く「嘘のない心」があった。

その会場の片隅――

シドは仮面をつけたまま、ひとりグラスを片手に壁際に立っていた。
いつものように喧騒の中心に混ざることはせず、舞台を眺める傍観者でいる方が心地よかった。

けれど今夜は、少しだけ違った。

「……隅っこで何してるの?」

突然、声がした。
振り返ると、銀の蝶の仮面をつけた女性が、いたずらっぽく微笑んでいた。

シドは思わず目を細める。仮面で隠れていても分かる――アリスだった。

「君こそ。王女がこんなところにいたら、問題にならないのか?」

「仮面をつけているから、王女じゃないのよ。今日は誰もがただの“舞踏会の客”でしょ?」

そう言って、アリスは手を差し出した。

「踊りましょう、シド。せっかくの夜なのに、踊らないなんてもったいないわ」

「……俺は、そういうのは……」

「知ってる。でも今日は“誰かに誘われたら断ってはいけない”って、仮面舞踏会のルールよ?」

そうだったか?と苦笑しながら、シドは観念したようにグラスを置き、彼女の手を取った。

音楽が変わる。少しスロウで、優雅な旋律。
仮面をつけた二人が、音に合わせて舞踏の輪に溶け込んでいく。

不器用ながらもシドのステップは正確で、アリスのリードを見事に受け止めた。
 アリスの視線は、その仮面越しの瞳にじっと注がれている。

「ねぇ、シド」

「ん?」

「あなたって、何者なの?ダンス踊れたのね、とっても上手よ。」

「……さあ。今夜は、誰でもない“仮面の男”ってことでどうだ?」

「ふふ、うまく逃げたわね。でも、その目は嘘をつけない」

 笑みを交わしながら、二人はひととき、仮面という名の自由の中で踊り続けた。
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