魔法使い時々王子
シドはひとつ息を吐いた。
空になったグラスを指先でころがしながら、ぼんやりと琥珀色の液体の残り香を嗅ぐ。

沈黙を破ったのはキースだった。
「……ごめん。無理に思い出させたみたいで」

シドは首を横に振る。
「…話したのは俺だ。それに……いつかは誰かに話すべきだとも思ってた。王宮で働いていたらいつかバレるかもしれない、元王族という事が。」


キースが驚いたように眉を上げる。

「それって、今は……魔法大臣にも?」

「いや、まだ言ってない。けど……ロザリア様には、いずれ話さなきゃいけないと思ってる」

シドはまっすぐ前を見据える。迷いのない声だった。

「ここで生きていくなら、隠し通すより、ちゃんと向き合う時が来るだろうな」

「…祖国の方はお前のこと連れ戻したりしないのか?」


「この間の舞踏会で従姉妹に会った。戻って来いと言ってくれたが、俺の親は俺が姿を消してホッとしてると思う。」

シドは頬杖を付いて笑いながら言った。隣で聞いていたキースは少し表情を歪めた。

「…この国での暮らしはどうだ?祖国を出た甲斐はあったか?」

シドはグラスを置き僅かに笑った。


「ああ。国を出て良かったと思ってる。」

その言葉を聞いてキースは笑みを見せ、残りの酒を飲み干した。


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