最強純血乙女の獣夫後宮 ～末世の逆ハーレム無双譚～

第2章 獣化期の危機

「そりゃ、昨日お前が姑さんに愚か者って叱られたわけだ。」

この世界のルールはそんなものだ。清枝花恋は外来者ゆえにまだ慣れない部分が多いが、論理を整理すれば、さほど抵抗は感じなくなる。

小狐のイン・エントロピーは頭を掻き、気まずげに呟く。「僕…成獣になれば、こんな愚かじゃなくなるかな…」

その時、花恋の視線は再び巡回隊の面々に戻る。

「最近、人手不足でしょ？ 義勇兵として参加できない？」

相手は驚愕の目を向ける。

「清枝上校、あなたの実力は認めますが、巡回隊に雌性が加わった前例はありません。」

「なら、私が初の例になればいい。イン・リリ指揮官だって下っ端から這い上がったんでしょ？ 生まれつき指揮官じゃないよね？」

隊員たちは顔を見合わせる。

「それは…上層部に伺いを立てます。こんな大事、俺たちじゃ決められません。」

「いいよ。」花恋は快諾し、次にイン・エントロピーに目を向ける。「そういえば、この時代の武器の使い方、まだ知らないんだ。教えてくれる？ 怪物に遭遇して、ナイフで立ち向かうだけじゃ嫌だし。」

イン・エントロピーは即座に敬礼し、答える。「問題ありません、上校！ 僕にお任せを！」

彼は若いが銃器に精通し、射撃場を借り、基礎から丁寧に教える準備を整える。

花恋は末世前も軍人だった。銃器は技術が進化しただけで、操作は変わらず、適応に半日とかからず、ほぼ神射手の域に達する。

夕暮れ、イン・エントロピーが彼女を家まで送る。まだ玄関に辿り着かぬうち、芳ばしい香りが漂う。

門の認証が彼女を認識し、自動で開く。豊叔が餐盤を手に、花恋を見て一瞬立ち止まり、挨拶する。

「ご主人様、夕食の用意が整いました。若様がお待ちです。一緒にどうぞ。」

花恋はあの尊大な若様が苦手だが、この異世界でも、帰宅すれば温かい食事が待つ。それだけで気分が和らぐ。

小狐に別れを告げ、庭に入ろうとすると、テントが目に入る。

あの虎だ。

「まだいるの？」花恋は訝しげに問う。

逃げる時はあんなに颯爽としてたのに。

「帰りたくて帰れねえんだよ！」レツエンは苛立ちを隠さず返す。「出入管理センターに行ったら、俺の身元情報がないって！ マジで頭にきた。あの女、俺のこの顔見て、知らねえなんて嘘つくなんてよ。」

豊叔が微笑む。「レツエン様は確かに有名ですな。一緒に夕食をどうです？ あなたの分も用意してありますよ。」

レツエンは答えず、怨みがましく花恋を一瞥し、テントを黙々と整える。

「いいよ、嫌われ者になる気はねえ。」

花恋は肩をすくめる。今日、獣化で棄てられた雄性狐人を思い出す。特別な強さはなくとも驚異的な破壊力を発揮した。あの虎が失控すれば、住民にさらなる危険が及ぶだろう。

「中入って飯食え。一階の左の部屋に住んでいい。ただし、喧嘩は禁止。」

大猫は一瞬の躊躇もなく、別荘へ足を踏み入れる。

さも矜持を保つように、玄関で立ち止まり、振り返って言う。「先に言っとく。帰れねえだけだ。媚びてお前の下に入る気はねえぞ。」

花恋は思わず笑い、視線を滑らせ、居間で優雅に茶を啜る若様を捉える。

この若様の大物感が強すぎて、大猫は住めば自動的に「二番手」ポジションを意識したのか？