野いちご源氏物語 二〇 朝顔(あさがお)
正直なところ、源氏(げんじ)(きみ)朝顔(あさがお)姫君(ひめぎみ)とのご結婚を(あせ)ってはいらっしゃらない。
ただ、冷たくあしらわれることが不本意(ふほんい)で、負けたくないとお思いなの。
とはいえご自分が立派なご身分で、世間からの評判も高いことは分かっていらっしゃる。
<この年になってまで女好きなふるまいを続けていては世間から批判(ひはん)されるだろう。しかしここで(あきら)めて、こっぴどく振られたらしいという(うわさ)が立てば笑い者になる。どうしたらよいだろうか>
と悩んで、内裏(だいり)にお泊まりになる夜が増える。
(むらさき)(うえ)は、
<いよいよこれは本気でいらっしゃるのだ>
と不安で、我慢なさっているものの涙がこぼれるときもある。

「いつもとご様子が違いますね。どうなさったのですか」
と源氏の君は紫の上のお(ぐし)をなでながらおっしゃる。
お髪は涙で()れているの。
「私が内裏に泊まってばかりだから怒っていらっしゃるのですか。実はね、(みかど)がお心細そうなのです。入道(にゅうどう)(みや)様がお亡くなりになって、世の中すべてをつまらないとお思いのようでね。太政(だいじょう)大臣(だいじん)様がいてくだされば心強かったのだけれど、あの方もお亡くなりになってしまいましたから、私が帝のおそばについていてさしあげなければなりません。
私が外泊することにあなたは慣れていないだろうが、しばらくは(こころ)(おだ)やかにしていてください。すっかり大人になったというのに、まだ子どもっぽいところがある。そこがあなたの魅力(みりょく)でもあるけれど」

女君(おんなぎみ)は背を向けてしまって何もおっしゃらない。
「そのように幼すぎるふるまいは、私は教えていませんよ」
源氏の君は女君を責めながらも、
<明日どうなるか分からない世の中だというのに、ここまで嫌われてしまうのもつらいことだ>
と、しんみり物思いにふけってしまわれる。

(さきの)斎院(さいいん)にお手紙を送っているのを、何か勘違いなさっているのでしょう。そんな深刻なことではありませんよ。昔から私のことなど相手にしていらっしゃらない方なのです。それでも退屈なときにお手紙を差し上げると、ほんのたまにですがお返事をくださる。よほどあちらもお暇なときだけです。ですから、いちいちあなたにご報告して心配をかけることもないと思っていたのですよ。これで勘違いだとお分かりになったでしょう。ご安心なさい」
と、源氏の君は一日中女君を(なぐさ)めていらっしゃった。
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