おしゃれなWi-Fi
とある国の首都のとある閑静な住宅街の中に、
その手芸教室はありました。
3階建ての白いアパートの1階の一室、
そこが『Wi-Fi手芸教室』です。
さて、Wi-Fi手芸教室とは、
一体どんな手芸教室なのでしょうか。

中に入ると、
玄関の脇に小さなキッチンがあって、狭いダイニングには銀色の大きなラックがあり、
手芸用品が種類ごと、大きさごとに分けられ、
それぞれプラスチックの透明なケースに収められて並べられています。
その奥の10畳ほどの部屋は洋間で、オレンジ色のじゅうたんが引かれ、
木の大きな作業台と、椅子があります。
茶色の髪を逆立てた、つり目の17歳の少年は、Wi-Fiを編んでレースのような丸い飾りを作っています。
コースターのようです。
空中を飛ぶ白いWi-Fiが彼の細い指にからまり、レース糸のようになって、
彼が持つ金色のレース針で丁寧に編まれて行きます。
肩まで伸びた黒髪を持つ14歳の少女は、Wi-Fiにインクを注ぎ、色を付けて、
その色の付いたWi-Fiをねじったり、曲げたりして、立体的な模型を作っています。
今は、公園にあるジャングルジムのような形の青いものを作っています。
ピンク色の長い髪の4歳の少女・おちびさんは、
大きな白いくまのぬいぐるみを抱いて歌っています。歌っているだけです。
歌っているのは童謡です。今は、雪の歌です。今日は身に染みるように寒いのですが、
この部屋はエアコンでほんのりあたたかいのでした。

この手芸教室の先生は、30代後半くらいの男性です。
オタマジャクシのような形をしたやさしい黒い目をしている細身の長身の男性で、
髪は短くこげ茶色、いつもまるい銀縁のメガネを掛けています。
今、先生は白い麻のエプロンをして、キッチンでお茶を淹れています。
少年にはあまいカフェオーレ、少女にはカモミールティー、
そしておちびさんにははちみつ入りのホットミルクです。

ここでできた作品たちは、近くの喫茶店などに卸されます。
先生の本業は、Wi-Fiを可視化・加工化する技術を持っている科学者なのでした。
喫茶店のお客さんたちは、好きな時に好きな色、形のWi-Fiを自分のパソコンや携帯に繋ぎます。
その『おしゃれなWi-Fi』の噂は、SNSなどを通じて、少しずつ広まっているのでした。
と、
「動くな!」
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