（改稿版）小児科医の恋愛事情 ～ 俺を選んでよ…もっと大事にするから ～

１．出会い

「あー、今日は細かい検査が多かったな･･。さすがに疲れた」

小児科の日勤からようやく解放され、病院の西側にある救急外来横のスタッフ通用口から外に出る。
そのまま病院前の大通りに出ようとしたものの、何気なく駐車場に目を向けると、誰かが車の陰でうずくまっているように見えた。

気のせいか･･？

そのまま通り過ぎるのも、なんだか気が引けた。
何も無ければそれでいいと、車に近づく。

「･･ぅぅ･･っ･･」

そばまで行くと、うずくまった女性が側頭部を抑えながら車に寄りかかっていた。

「大丈夫ですか？」

驚かないように小声で声を掛けたけれど、その女性は虚ろな表情を浮かべてこちらに視線を向けるだけ。
これはマズイな･･。

「動かずに少しだけ待っていてください。すぐ戻ってきますから」

抱き上げて救急外来に連れていくことも考えたものの、相手は普段から接している子供の患者ではないし、やはり安全に車椅子で運ぶべきだと思い直し、俺は目の前にある救急外来病棟に飛び込む。

すぐ近くに、求めている人物がいた。

「大翔、頼む！　一緒に来てくれないか」

「ん？　どうした祐一郎。その格好、もう帰りじゃ･･」

「早く！！　こっちだ」

救急外来病棟のナースステーションで、手続き書類を書いている救命医の野中(のなか) 大翔を呼ぶ。

俺は病棟の通路に置かれた車椅子を抱え、大翔と一緒に女性のもとに向かった。
大翔もすぐに、うずくまっている女性に気づいたらしい。

「大丈夫ですか？　立てますか？」

俺の問いかけに弱々しく頷く女性の反応を見て、大翔は俺に目配せをする。
急いで中に連れて行こう、と言っているように見えた。

「車椅子に乗せますね」

声がけしつつ、俺はそっと女性を抱き上げて車椅子に乗せる。
具合の悪さによる冷や汗のせいなのか、抱き上げた時に触れた背中は冷たく、さらに痛みで震えているように感じた。