(改稿版)小児科医の恋愛事情 ~ 俺を選んでよ…もっと大事にするから ~
昨日、新神戸のカフェでケーキを食べそびれていたのを思い出し、彼女の家に向かう途中でケーキを買った。
結局、彼女からの返信が無かったから、これから行くという連絡もせずに来てしまった。

インターホンを押そうとボタンに指をかけると、中から彼女の声がした。

なるほど・・。
誰かがいたから連絡が無かったのか。

そこに俺が割り込んでいくのもどうかと思い、ドアから離れようとした時に内側からカギを開ける音がした。
隠れる必要もないはずだけれど、俺はとっさに通路の陰に身を寄せる。


「茉祐子、また連絡する」


この声・・。
聞こえてきた男の声に、覚えがあった。

大阪駅のホームで聞いた、『まゆこ』と呼んだ声だ・・。

ハッとして通路を見たものの、既にエレベーターに乗った後で姿が見えなかった。
でも、まだ外にいるかもしれない。

俺は買ってきたケーキの袋を彼女の家のドアノブに掛け、エレベーターで1階まで降りる。

「いない・・か」

外に出て辺りを見渡してみたけれど、それらしい男はいなかった。

いや、そうじゃない。
通りを歩いている男は何人もいるのに、そもそも『それらしい男』の声しか知らないのだから、わかるはずがないのだ。


「何がどうなってるんだ? あの男、いったい誰だよ・・・・」


声の感じから想像するに、同年代という感じでもない。
それなのに彼女を名前で呼び、家に迎え入れられる存在。

俺だけだと勝手に信じていた。
彼女に、そんなふうに思われているのは。

そう、ではなかったのか───。

突然現れ、急激に距離を詰めてきた男の存在。

彼女の家に引き返す選択もあったけれど、混乱した感情を彼女にぶつけてしまいそうだから。
肩をつかんで、問い詰めてしまいそうだから。

そんなことをしたら、きっと俺たちはお互いを失ってしまう。

俺は葛藤を抑え込むように、グッと拳を握りしめながら自宅に帰った。



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