(改稿版)小児科医の恋愛事情 ~ 俺を選んでよ…もっと大事にするから ~
夜間の呼び出しにも対応できるようにと、普段は飲まないはずの酒に手をつける。
ウイスキーを、ロックで。

抑え込むことで思考を回転させずにいた脳も、酔うことで少しほぐれたのか、これまでのことをゆっくりと思い出す。

全て繋がっていたんだろうか。
全て、同じ人物のことを指していたのだろうか。

最初は、大翔だ。

『俺、茉祐子が困ってる時に話聞いてやれなくてさ。それどころか、責めたんだ』

この話を聞いた時、これが男との関係を指しているとは考えなかった。
でも、いま思えば・・。

明日、何のことか、誰のことか、大翔にちゃんと聞かなくては。

新大阪で『まゆこ』と呼んだ落ち着いた声の男。
新神戸で彼女を困惑させた、後ろ姿の男。
さっき彼女の家から出てきた、親しげな関係の男。


・・・・誰なんだよ本当に。
俺には、見当もつかない。


ブブ・・ブブ・・。

テーブルに置いたスマートフォンの振動はすぐにおさまり、着信ではないことを知らせる。
画面に視線を向けると、メッセージが表示される。


『ケーキありがとう。冷蔵庫に入れました。おやすみなさい』


これは、なんだ?
今の俺に、このメッセージは何の意味がある?

彼女からのメッセージに返す言葉もなく、スマートフォンの画面を伏せるように裏返した。

『おやすみ』のひと言さえ、今の俺には難しい。
器の小ささに、苦笑いした。

たとえ文字であっても、何かひと言でも発すれば溢れ出てしまいそうな感情が、胸の奥にある。
冷静に対処できないなら、しばらく気持ちに蓋をするべきだ。

『彼女には、別に男がいる』

その可能性から、目を背けるために。

可能性、いや、事実か・・?

俺は空になったグラスに、もう一杯分ウイスキーを継ぎ足し、できるだけ何も考えずにゆっくりと飲んだ。



< 43 / 120 >

この作品をシェア

pagetop