(改稿版)小児科医の恋愛事情 ~ 俺を選んでよ…もっと大事にするから ~
地下に移動して、車に乗り込む。

「実はね、母のお墓が郊外にあるの。母に・・ママに祐一郎を紹介してもいい?」

カーナビに行き先を入力した時、霊園を指定したのはそういうことだったのか。
まさか彼女の母親だとは思わなかったけれど、既に他界していたんだ・・。

車を走らせながら、この話に踏み込んでいいものかと躊躇する。
でも、俺を連れて行きたいと言うのだから、むしろ聞いてほしいと思っていたのかもしれない。

「お母さんはいつ亡くなられたの? 病気で?」

「うん・・5年くらい前かな。もともと持病があったんだけど、少しずつ悪くなっていって」

「そっか・・。5年前なら俺はもう医師だったな。もっと早く茉祐と知り合っていたら、何かできたかもしれない。残念だな・・」

助手席の彼女が、俯いて涙をこぼした。
お母さんのことを思い出しているんだろう。

「そんなふうに・・言ってもらえるだけで嬉しい。ありがとうね」

「うん・・。茉祐、あそこに花屋がある。もうすぐ霊園だから、あそこで花を買おうか」

「そうだね。停めてもらってもいい?」

「もちろん。一緒に選ぼうか」

立ち寄った花屋は霊園の近くにあるからか、大ぶりの花や香りの強い花はなく、やわらかい雰囲気の花がたくさん置いてあった。

彼女は白をベースに、黄色やオレンジを混ぜた明るい花束をオーダーする。
きっと、それが彼女の持つ母親のイメージなのだろう。

「ママは、太陽みたいな人だったの。いつも笑っていて、暖かくて優しくて。私の憧れの人」

「そうなんだ、会ってみたかったな・・。会って、茉祐の話を聞きたかった」

アレンジしてもらった花を抱えて、俺たちは車に戻る。

「よし、行こうか」

そう言って、ふと気づいた。
そういえば・・彼女が父親の存在に、全く触れていないことに。



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