(改稿版)小児科医の恋愛事情 ~ 俺を選んでよ…もっと大事にするから ~
仕事を終え、家に帰る。

「ただいまー」

インターホンを鳴らしたものの、反応が無い。
でも、玄関のドアを開けると、仕事部屋からライトの灯りが漏れている。

帰ってたんだな。

そーっと仕事部屋のドアを開けると、小声で英語と日本語を操る彼女がいた。
間近に迫った国際会議に向けて翻訳の仕上げがあると言っていたから、集中して仕事をしているのだろう。

静かにドアを閉めようとしたタイミングで、彼女に見つかった。

「祐一郎お帰り。ごめん、気がつかなくて」

「いや、いいんだ。俺の方こそ、集中してたのに邪魔してごめん。あ・・せっかくだから何か飲むか? 少し休憩する?」

「うん、そうする」

一緒にリビングに戻り、お茶を入れる。
彼女のトレイには、お茶のマグカップとプリンを乗せた。

「はい、どうぞ」

「え・・買ってきてくれたの?」

「うん、コンビニのプリンだけどね。茉祐頑張ってるから」

「祐一郎やさし~」

大げさな反応に笑いつつも、こうしてふたりでいられる時間に幸せを感じている。

一緒に暮らそうと伝えてから1ヶ月ほどで、彼女がここに引っ越してきた。
ようやく荷物も片付き、生活のペースがつかめてきたところだ。

それだけじゃない。
ふたりの時間が格段に増えるということは、他の男が割り込む隙を作らせないのも密かな目的だった。

「茉祐、国際会議いつからだっけ?」

「今度の木曜から二日間。だから、その前日の水曜と木曜は会議場近くのホテルに泊まるように言われてる。当日、交通トラブルで行けないと困るからって。
さてと・・もう少しだけ仕事するね」

「ほどほどに。もし辛くなったら、寝てても起こしていいからね」

「うん、わかった。おやすみ」

俺は毎晩、同じセリフを彼女に伝えている。
『辛くなったら、たとえ寝ていても必ず起こして』と。



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