(改稿版)小児科医の恋愛事情 ~ 俺を選んでよ…もっと大事にするから ~
「それじゃ頑張って。少し時間かかるけど、辛いときは・・・・いや、辛くなる前に必ず連絡して」

「うん、そうする」

「じゃあ行くよ」

「うん・・」

彼女が宿泊する部屋の入口で、なかなか別れられずにいた。
とはいえ、さすがにそろそろ病院に向かわないと当直に間に合わなくなる。

「祐一郎、仕事・・遅れるんじゃない?」

「そうだな・・。行くよ」

俺はようやく彼女の部屋を離れ、ホテル直結の駅に向かう。
ホームに到着した電車に乗り込む時、すれ違った男の後ろ姿が視界に残った。

あれ・・?
今の男、どこかで・・。

そう思っているうちにドアが閉まり、電車が走り出す。
気になったものの、思い出せないまま病院に出勤した。

医局に入ってすぐ、当直のナースからも引き継ぎを受ける。

「西島先生、救急外来から応援要請が来ていますがどうされますか?」

「あー・・。はい、すぐ向かいます」

寒くなってきて風邪で高熱を出す子どもが増えてきたからか、その夜の当直は何度か救急外来に呼び出された。

「大翔、俺も今夜はこのまま救急に詰めてた方がいいかもしれない。子供が増えてきてる」

「そうだな。大人の熱発も多いし、救急のスタッフだけじゃ足りなそうだ」

「さすがに夜中は減ると思うから、落ち着くまでこっちにいるよ」

救急外来の廊下で、手短に大翔と会話する。

夜間対応の救急スタッフと連携を取りながら、手早く診察して薬を出していく。
少しでも待ち時間が減るように、早く帰宅できるようにと集中して治療した。

彼女のことも、彼女に寄りかかろうとする『気弱な大翔』のことも、駅で見かけた男のことも・・。
診療中は、すっかり頭から消えていた。



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