(改稿版)小児科医の恋愛事情 ~ 俺を選んでよ…もっと大事にするから ~
見た感じ、彼女が一緒にいる様子はない。
部屋の中にいるのか、まだ戻っていないのか・・。

「祐一郎?」

えっ?

振り返ると、エレベーターから降りてきた彼女が俺に近づいてくる。

どうする・・?
咄嗟に、ふたりには会わせたくないと思った。

俺は無言で彼女の肩を抱き寄せ、エレベーターに逆戻りして下りのボタンを押す。
すぐに扉が開き、彼女と俺を乗せたエレベーターはロビー階に到着した。

「茉祐、いま休憩時間だろ? ロビーの横にあるカフェで食事しないか?」

「うん、それはいいけど・・。でもびっくりした。空き時間を聞かれた時は、もしかして電話くれるのかな・・くらいしか考えてなかったから。嬉しい」

「あ・・もしかして、休憩時間に誰かと一緒に食べる約束してた? 俺、急に来ちゃったから悪いことしたか?」

上で大翔を見かけたこともあり、彼女に尋ねる。
あいつとランチの約束でもしていたのではないか・・と。

「あー・・うん。ハルから話がしたいって連絡あったんだけど、詳しくはまた・・ってそれっきり。だから大丈夫だよ」

そう言って彼女は微笑んだ。
嬉しそう・・だよな?
俺が来たことを『嬉しい』って言ってくれたよな。

「茉祐、これ差し入れ。茉祐の好きそうなケーキを買ってきたんだ。後で食べて」

「ありがとう。あの、祐一郎・・」

「ん?」

「最近の祐一郎・・・・あ、元々優しい男の人だと思ってたよ。だけど、なんていうか・・その・・さらに甘くなった気がする・・」

「茉祐は・・甘いの嫌かな?」

まっすぐに見つめてそう言うと、彼女は頬を赤くして首を横に振る。

誰かに奪われるくらいなら、いくらだって優しくする。
今の俺には、彼女しか見えていないのだから。



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