ホリー・ゴライトリーのような女



夢の国は、魔性だ。一度でも掴まれてしまうと、たちまち住人の一人になってしまう。小さな頃からいくつかのテーマパークには行ったことがある。どれも楽しいし、よく思い出にも残っている。しかし、言ってしまえば所詮。所詮、それまでなのである。ただし、夢の国は一味違う。まるで魔法にでもかけられたように、ふんわりと、煌びやかな世界を追体験する。そして、魔法が溶けた頃、「あれ? 今まで何をしていたんだっけ?」といった感じで、記憶が曖昧になってしまう。中でどんなに理不尽な目に遭っても、結局は追体験の一部でしかなく、もう現実の世界に帰れば傷が癒えている。あれに乗って楽しかった、その後にこういうことがあった、こんな驚きがあった、等々、羅列するのは簡単で、しかしそれらはただの出来事でしかない。そこで感じた気持ち、昂り、そういったものは、とてもとても、言い表せない。すごい。なんて国なんだと思う。


そんなわけで、僕は夢の国、シーへ行った。中山さんと梨本さんと3人で確かに行った。しかし、その内容については、何も語ることはない。語ろうとも思わない。それはこの先、僕が話すことに何の影響も与えないことも一つあるが、実のところほとんど覚えていないのだ。一生懸命に思い出そうとしても、あのキングが持っている鍵で記憶の扉を堅く閉ざされ、どんなパスワードを打ち込んでも、開けることができない。本当に不思議な体験で、しかしだからこそ、行ったという事実だけは読者に語ろうと思った。僕はこんな不思議な体験をしたんだぞ、と。オチなんてものはないし、まとまりだってない。でも、知るかってんだ! これだけの語りで、一人でも多くの読者に、僕が感じた何かが伝われば、それでいい。



< 63 / 106 >

この作品をシェア

pagetop