ホリー・ゴライトリーのような女
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夏休みが明けたタイミングで、大きな撮影が舞い込んできた。


3年生の先輩の卒業制作で撮る映画だ。スタッフリストには、清原や鹿波の名前もあった。


脚本は、ボーイミーツガール。ラブストーリーで、僕は、主人公の男の恋敵役として選ばれた。1年生では異例の大抜擢だった。監督は金井さんという男の人で、俳優科の先輩から聞いたことがあるが、この金井さんの作品に出ることは、とても名誉あることらしい。画ももちろん綺麗なのだが、何よりも脚本が抜群に面白い。前に清原からDVDを借りて、金井さんの作品を観たことがある。たしかに俳優を志す者として、魅力的なセリフが並んでいて、この大抜擢には、僕も嬉しかった。


「でも、どうして僕なんですか?」と本読みの日、たまたまトイレで隣同士になった金井さんに聞いた。


金井さんは小便器の中に目線をやったまま、「闇深さ、かな」と言った。


「キミには、内に秘めた闇深さみたいなものがあるように感じる。周りを斜に見て、達観している。元々、恋敵役なんか書くつもりじゃなかったんだけど、書いている途中、ふとキミのことが頭によぎった。それで急遽、ああいう本を書くことになった」


「そう、ですか」


金井さんは、手洗い場で、こうも言った。


「キミはありのまま、演じてくれればいい。この場合、それが正解だから」



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