過保護な医者に心ごと救われて 〜夜を彷徨った私の鼓動が、あなたで満ちていく〜
朝の光がカーテン越しに差し込む頃、雪乃はいつもより早く目を覚ました。
今日は、一時外出の日。

抗生剤の点滴が終わってすぐ、午後までには病院に戻ってくる約束だ。

滝川先生の許可も、神崎先生の無言の了承も得ていた。

ベッドの上でゆっくりと体を起こすと、胸の奥に沈んでいた不安が波のようにせり上がってくる。
「ほんとに、言ってよかったのかな……」
その呟きに応える者はいない。

けれど、彼女の瞳はどこか決意を帯びていた。

ナースステーションでは、遠藤がにこやかに迎えてくれる。
「おはよう。体調は大丈夫そう?」
「はい、朝から熱もないし、吐き気もありません」
「じゃあ、点滴終わったら外出ね。時間、守ってね? 無理そうだったらすぐ連絡するんだよ」

頷きながらも、胸の内はざわついたままだった。

バッグにはスマホと病院の連絡先メモ、そして念のための保険証。

ふと、タクシーの領収書を入れる封筒を確認するあたりに、彼女の律儀さがにじんでいた。

朝の点滴が落ち終わる頃、神崎がふらりと様子を見に現れる。

「行くんだな」
「はい、行ってきます。絶対、戻ってきます」
「あたりまえです」
それだけ言って、神崎は長く雪乃を見つめた。

言葉にしなくても、その視線が「気をつけろ」と訴えているのが伝わった。

病院のエントランスで手を振ったあと、タクシーに乗り込む。

車窓の向こうに流れていく街の風景は、いつもと同じなのに、どこか冷たく見えた。

(私の部屋は、私の居場所だったのに……)

そこに“誰か”が勝手に入っていることが、なによりも嫌だった。

今日、決着をつける。
少しでも、前に進むために。
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