過保護な医者に心ごと救われて 〜夜を彷徨った私の鼓動が、あなたで満ちていく〜
氷がカランと音を立てるグラスを、彼女は何の感情もなく口に運んでいた。

透明すぎる液体は、どう見てもただの水にしか見えない。

「……具合でも悪いか?」

その声に、雪乃は少しだけ眉を上げた。

「いえ。」

短く答えると、また氷の音を聞くふりをして、視線をそらす。
次の瞬間、不意にその手首を取られた。

「……っ、ちょっと……?」

驚きと困惑の入り混じった声が漏れた。

だが男は無言で、雪乃の手首に軽く指を当てる。

脈を測っている。

触れているのはほんのわずかな時間だったが、妙に落ち着いた動きに、逃げるタイミングを失った。

「……別に変じゃない。」

やがてそう言って、神崎は手を離した。
そのまま水のような缶チューハイに視線を落とす。

「酒、嫌いか?」

「嫌いじゃないですけど、あまり……飲まない方がいいだけで。」

「体質か?」

「まあ。」

それだけ言うと、雪乃はグラスを手元に引き寄せる。
淡々とした口調に、感情はほとんど乗っていない。

だがその目だけは、一瞬だけ神崎を測るように見つめていた。

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