過保護な医者に心ごと救われて 〜夜を彷徨った私の鼓動が、あなたで満ちていく〜
神崎は何も言わず、グラスの縁を指でなぞる。

この女は、何かを隠している――いや、隠さなければ生きてこられなかった。
それが直感的にわかった。

「気が遠くなったり、ふらつくことがあるなら……脳か、心臓だ。」

低く抑えた声でそう言うと、雪乃はほんの少し、視線を落とした。

「……はい。」

素直な返事だった。だが、それ以上は言おうとしない。

「病院には行ったのか?」

「……いえ。」

一拍おいて、短く答える。
その声に、ごまかしや嘘は含まれていなかった。

「なぜ行かない。」

「病院、嫌いだから。」

目をそらしながらのその返答に、神崎はしばし黙る。

沈黙の中にある“それだけじゃない”という空気が、彼女の体からじんわりと滲み出ていた。

「……本当に、それだけか?」

質問というより、確認。
強い目で見つめられて、雪乃はわずかに顔をしかめた。

「お医者さんなんですか?」

神崎は少しだけ肩をすくめた。

「ああ。」

それだけの言葉に、雪乃はふっと息をついた。
安堵とも、諦めとも取れるその息に、彼女自身も気づいていなかった。
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