過保護な医者に心ごと救われて 〜夜を彷徨った私の鼓動が、あなたで満ちていく〜
神崎が雪乃の顔を見て言葉をかけた直後、

病室の扉が少し慌ただしく開いて、看護師が息を切らせて入ってきた。

「すみません、お待たせしました」
「ああ、体温、先に測ってもらえます?」

神崎が落ち着いた口調で言うと、看護師は「はい」と頷き、体温計を手にして雪乃に渡した。

雪乃は無言で頷き、脇に体温計を差し込む。

その間も肩が小刻みに上下し、発熱による息苦しさが伝わってくるようだった。

神崎は傍らの看護師用パソコンを覗き込み、夜間の記録に目を通す。

画面に表示された簡素な文面と、対応の内容を読みながら、口元を引き結んだ。

「……熱あるので、一般採血と血培2セット、出しといてください」

「はい、了解です」

ピピッと体温計の電子音が鳴った。

雪乃が黙ったまま体温計を抜き取り、そっと数字を見て顔をしかめる。

「……39.4℃」

彼女の声はかすれ、思わず息を呑むような熱の高さだった。

神崎はすぐに反応した。

「先に血培出してから、TEEでベジテーション確認したい。準備お願いします」

看護師が動きを止め、神崎の顔を見て確認するように言った。

「IE疑い……ですか?」

神崎は短く、大きく頷いた。

その間、ベッドの上の雪乃は、二人のやり取りを奇妙なものでも見るようにじっと見つめていた。

医療用語が飛び交う中で、状況を正確に理解するには至らなくとも、
「ただの風邪」や「熱」では済まされない何かが起こっているという空気は、
嫌でも肌に伝わってきた。

神崎の表情は真剣そのもので、余計な言葉が削ぎ落とされている。

それが返って、不安をかき立てた。

──そんなに、まずいの……?

息を詰めたまま、雪乃はふいに視線を伏せた。
胸の奥がじわりと、冷たいもので満たされていくのを感じながら。
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