過保護な医者に心ごと救われて 〜夜を彷徨った私の鼓動が、あなたで満ちていく〜
神崎は、ベッドの側で立ったまま、意識して柔らかな声色を選んだ。

「今日もちょっと検査するけど、先に聴診だけさせてね」

できるだけ普段通りの口調でそう言って、雪乃の胸元のボタンに手をかけようとしたとき、
雪乃がじっと神崎を見つめて言った。

「……なんか、先生怪しいです」

神崎は少し目を丸くして、口元を緩めた。

「え、どのあたりが?」

「ぜんぶです」

その答えに、神崎は小さく吹き出しながら笑った。

「そんなことないと思うけどな。俺、けっこう正直者だよ?」

冗談めいたやりとりに、病室の緊張した空気がわずかに緩む。
神崎はそのわずかな隙を逃さず、まっすぐ雪乃の目を見つめた。

「このあとね、血液検査してから、もう一回心臓を詳しく調べたいんだ。
この前やったのは外からのエコーだったでしょ? 今回は、食道から、心臓の裏側をもっとはっきり見る機械を入れるんだ」

雪乃はぴくっと肩を震わせ、露骨に顔をしかめた。

「……食道? ……絶対ムリ。無理です、その検査は」

神崎は雪乃の表情を読み取って、すぐさま言葉を選ぶ。

「うん、怖いよね。名前からして怖いよな。
でも、大丈夫。薬を使って、眠ってるか、ぼーっとしてる間に終わるから。
喉を通る違和感はないし、気づいたら終わってるって人がほとんどなんだ」

「……苦しくないわけ、ないじゃん……」
雪乃は肩を落として、布団を指先でぎゅっと握りしめた。

神崎は少ししゃがんで、視線の高さを雪乃に合わせる。

「苦しい思いはさせたくない。
でもね、今、熱があって、脈も不安定で……。これは心臓に感染が起きてるかもしれないサインなんだ。
心臓の中に菌がついてしまってたら、放っておいたら、本当にまずい。早く見つけて、治療を始めたい」

彼の声は、穏やかだけれど、芯のある真剣さに満ちていた。

「怖いのはわかってる。俺だって、逆の立場なら絶対イヤだと思う。でも……雪乃さんの体が大事なんだ。
だから、ちゃんと調べさせて? そしたら、今よりもっと安心できる治療ができるから」

しばしの沈黙のあと、雪乃は眉をひそめたまま、神崎の白衣の端を指先でつまんだ。

「……先生が、絶対、ちゃんと見てくれるなら」

神崎は、まっすぐ頷いた。

「ああ。約束する。俺がちゃんと見る。だから、信じて」

その言葉に、雪乃はゆっくりと目を閉じて、小さく、こくりと頷いた。

怖い気持ちはまだ消えていない。

けれど、彼の言葉のひとつひとつが、心に少しずつ届いていた。
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