過保護な医者に心ごと救われて 〜夜を彷徨った私の鼓動が、あなたで満ちていく〜
点滴を始めてから、しばらくは穏やかだった。
雪乃はウトウトしながら、時おりテレビの音に反応しつつ、静かに時間をやり過ごしていた。

だが、午後四時を過ぎた頃。
急に、胸のあたりがムズムズとし始める。
なんとなく喉が詰まるような違和感。

「……あれ?」

言葉に出そうとしたときには、身体にじんわりと熱が広がり始めていた。
それと同時に、首元や腕、顔の皮膚にかゆみを感じる。
無意識に腕を掻いたその瞬間、看護師がナースステーションから病室のモニターで異変に気付く。

「大原さん!」

駆け込んできた看護師が、赤くなった雪乃の腕を見て声を上げる。
「発疹……! アレルギー反応かもしれません」

すぐに点滴ポンプを止め、ナースコールで医師を呼ぶ。
その時点で、雪乃の呼吸は浅く、額には汗がにじんでいた。
「息が……ちょっと……苦しい……」

神崎はちょうど救急外来の緊急対応中。
その報せを聞き、すぐさま滝川が循環器病棟へ駆けつける。

「滝川です、どのくらい前から?」
「発疹に気付いたのが5分前です。点滴開始からは約40分です」

滝川は雪乃の顔色と皮膚の発疹、呼吸状態を素早く確認。
「酸素飽和度は?」
「92%まで低下しています」
「アドレナリン準備して、すぐにステロイド静注。それと抗ヒスタミン薬も」

看護師が迅速に指示に従って動く。
滝川は雪乃に顔を近づけて、落ち着いた声で話しかけた。

「大原さん、聞こえますか? 今すぐ楽にする薬を入れますから、大丈夫。意識はしっかりありますか?」

「……はい、ちょっと……苦しい、だけ……」

「えらい。すぐ楽になります。呼吸、ゆっくりして。深く、吸ってみて」

点滴ルートから薬剤が投与される。
数分のうちに、雪乃の発疹の赤みが薄れ、呼吸も徐々に落ち着いていった。
酸素マスクをつけ、ベッドを少し起こして体位を調整。

滝川は時計を見ながら経過を確認し、静かに言った。
「典型的な薬剤性アレルギー反応。幸い軽度で済んでよかった。最初の投与で出ることがあるから、今後は薬を変更する必要があるね」

「……あの薬、合わなかったんですか?」

「そうみたいだね。でも大丈夫、薬はいくつか種類がある。神崎と相談して、別の抗生剤に切り替えるよ」

雪乃は疲れたように、けれど安心したように目を閉じた。

「怖かった……でも……助けてくれて、ありがとうございます」

滝川はやわらかく笑った。

「君がちゃんと訴えてくれたからだよ。小さなことでも、声に出していい。それがいちばん早い治療になるからね」

その言葉に、雪乃は静かに頷いた。
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