残念ハイスペ女子なんて 言うな
暑かった夏をまだまだ引きずったまま2学期が始まった
思い切り部活動に励めた夏休みは2年生ってこともあって先輩や後輩たちと思い切り楽しめた
もうすぐある秋の記録会へとそれぞれの部員たちが目標を高く持ってた…けど、高校2年生の夏休みもガチで部活だけだったことに複雑な気持ちもあったりして…
あれは2学期が始まって1週間ほどした頃
お昼休みわたしは友だちとふざけあってた弾みで窓際の男子のつくえを倒してしまった(男子の机と女子の机は一列ずつ交互にならんでいる)
幸い机には殆どなんにも入っていなかったので辺りに散らばってるものはなかった
わたしが倒れた机を起こそうとしたとき中から一冊の本が落ちてきた
わたしは机から落ちた本を拾い上げて何気なくタイトルを見て驚いた
『赤毛のアン』
おおよそ高校生男子には似つかわしくない本!(偏見かな)
でもそれはわたしを読書の世界に導いてくれた大切な本だった
ーえ? ここ誰の席だっけ?ー
2学期も始まり席替えもあったせいでこの机が誰のものかすぐにはわからなかった
なんならわたしは男子には興味がない方だったので知らなくてもおかしくなかった
「花凜ちゃん ここの席って誰の席?」
「たしか本条くんの席じゃなかったかな?」
ー 本条??ー すぐに顔が思い浮かばなかった
「ネオンちゃん 机倒したこと謝るの?」
「え? それもあるけど、この本その本条って子の本なのかな?って」
わたしは本のことを聞いてみたいと思っていた
机を倒したこと謝ろうなんて頭になかったので
なるほど話しかける口実になるな なんて思ったくらいだった
「本条くんいつも一人で本読んでるから たぶん本条くんの本だと思うけどな 律儀だねネオンちゃん」
謝るなんてのは花凜ちゃんのくれた口実だけどね
それより花凜ちゃんはなんでもよく見てて知ってるんだなぁ わたしはあんまり周りを気にしない自分を少し冷たいのかも なんて考えた
「あ! あの子 本条くん!」
花凜ちゃんが今教室に入ってきた男子を見てわたしに教えてくれた
ボサッと伸びた髪に少し猫背気味に歩く姿
あんま目立たない風貌は教室のどこにいても気づかない訳だ と勝手に納得してしまう
わたしは彼の下へ近づいて声をかけた
「ねぇ本条くんだよね? さっきわたしキミの机倒しちゃったんだよね ふざけてて
そのことを謝ろうと思って ごめんなさい」
「え? あぁそんなことどうでもいいのに」
「でね、そんとき机の中から本が出てきてさ
『赤毛のアン』っての あれ本条くんの本?』
「そぅだけど それがなにか? それよりキミだれ?」
え? ちょっとなにそれ?! わたしは声にこそ出さなかったけど内心少し驚いてた
まさかクラスにわたしのこと知らない人がいるとは…って
「あ、あぁ わたし神楽ネオン 本条くんとは一番後ろの席同士だね つまり同じク・ラ・ス」
「そっか わかった 机のことも別に気にしてないし
わざわざ丁寧にありがと」
「で、これ本条くんが読んでるの?って」
「え、うんまあ 別に読んでるっていうか もう随分前に読んだ本だし お守りみたいなもん」
お守り!? 『赤毛のアン』が???ぜんぜん意味わかんないんだけど
「もういいだろ 次の授業の用意するから」
そういうとカバンから教科書とノートを机の中に移しだした いちいち授業毎にカバンの中から入れ替えてるの? めんどくさいことすんだな…(転校が多いから身辺は常に整理しておきたい)
わたしの気になるはそこじゃないし
「あのさ、お守りってどういうこと?」
ここで聞けなかったら絶対に後で聞けないと思ったわたしはずうずうしくも本条くんに質問していた
「なに? そんなこと気になんの? もしかしてバカにしてるとか?」
「はあ? そんなことないし! わたしの好きな本なんよ 『赤毛のアン』は! わたしを本の世界に導いた一冊と言っても過言じゃないの!」
本条くんの一言につい熱くなってしまった
「へぇ それこそ珍しい 今どきJKがこんな本読んでるなんて」
少し驚いたように、でも皮肉めいた言い方をしてくる
「こんな本って言うな」
本条くんの皮肉に噛み付くようにわたしは揚げ足をとる
「こんな本なんて思ってねーわ」
フッと少し笑ってわたしの方を見る
その目はわたしを見定めるかのように見えた
「ちゃんと大切な本だって思ってんだな ふーん…」
『赤毛のアン』を手に取って眺める本条くん
「まぁあれだ 仮に本について話すにしても時間も足りないし、なにより話せる状況じゃねぇだろ こんなザワザワした昼休みの教室で」
それもそうだ 確かにわたしだったらいやだ
「あんま気にすんな 大したことじゃない」
本条くんの言った『大したことじゃない』にわたしは反応してしまった わたしの大切な本を彼が読んでたって喜びや嬉しさのようなものが踏みにじられたように感じられたから 冷静に考えればそんなことないんだけど その時のわたしは冷静じゃなかった
「本条くんにとっては大したことじゃなくても わたしにとっては大したことなの! つまんない日々への認識を変えてくれた、日々を楽しもうと努力しようとする自分へと変えるきっかけになった本なの わたしにとって!!」
呆気にとられる本条くんと花凜ちゃん
気づけばまわりのクラスメイトもこっちを見てた
わたしは大きい声を出してしまってたことに気づいて恥ずかしくなった
「そんな興奮すんなよ 悪かったよ 別にそんな気で言ったわけじゃないし」
バツの悪そうな本条くんに対して我に返ったわたしは少し申し訳なく思った
「ごめん ちょっと興奮した だったら今日帰りに話せん? わたし部活ないから帰り道途中まででも話し聞かせてほしい」
「え、あぁいいけど てかどうした? なんでそんなになにが聞きたいってんだよ」
「いいんだったら帰り道話す だから今はもういい」
一方的で勝手だなって自分で思った
自分の都合を本条くんに押し通したりして
花凜ちゃんも『どうしたの?ネオンちゃん』って言ってたけど それでもやっぱり聞きたかった
ちょっと意地になってるのかな?って自分で思ったりもした もしかしたらわたしには少し確証があったのかも知れない 『赤毛のアン』を読んだ彼の【お守り】って発言の真意に
彼もわたしも同じなんじゃないかって…
なんか少しそんな気がしたんだ…