こちら元町診療所
「なんのことですか?
 先生には先生の用事があると思います
 し、私を最優先なんかに考えなくて
 もいいですよ?わざわざ気にして
 来なくてもいいですから。」


こんな事が言いたい訳じゃないけど、
連絡もなしで勝手に来ておいて、
服装がどうとかも言われたくない‥‥


口に出す病んだ言葉の数々に、
後悔すると分かってるのにぶつけないと
感情がコントロールできないと
思えたのだ。


止まらない感情に泣くのを
堪えると、先生の手が頭にそっと触れ
そこを何度か優しく撫でてくれた。


『そっか‥‥休みの日に悪かったな。
 風邪引くといけないから、早く
 髪の毛乾かすんだよ?顔色も悪い
 からしっかり食べて休むといい。
 それじゃあ‥また月曜日。』


ズキッ


スッと離れた手の温度がなくなり、
家の扉がガチャっと音を立てて閉まると
同時に両目から涙が一気に溢れた。


最低だ‥‥‥。
この歳になって、こんな醜い嫉妬を
するなんて‥‥‥。


でも‥‥あんなに綺麗で素敵な人が、
好きな人に抱きつき、先生も背中に手を
添えた姿を思い出してしまう。


先生とは出会って半年しか経っていないけど、伊東先生はここに来る前の先生を知ってて、わざわざ会いたくて志願してきた人だ。


叶先生の想いは真っ直ぐ伝わってるし、
私の事を大切にしてくれてるのも
分かってる。


ただ‥‥相当素敵な人だけに、こんな
私が隣にいる自身が持てない‥‥‥。


会いにきてくれたのに、
お礼も言えなかった‥‥。
もう‥‥先生だって嫌になったはず‥。


「うぅっ‥‥ッ‥」


私はその場で座り込むと、暫く動けず、
温もりを手放したことに泣き続けた。






『靖子さんおはようございます。
 こんな時間に出勤なんて珍しい
 ですね?』


「浜ちゃん‥おはよう。
 ちょっと貧血気味でさ。でも全然
 大丈夫だから。」


月曜日

気怠い体と共に目覚めると、食欲も
なく、フルーツを少しだけ食べて
なんとか出勤したものの、どんどん
具合が悪くなる一方だった。


土曜日、先生が帰った後暫くそこから
動けず、髪の毛も濡れたままソファで
眠ってしまったからだと思う。


1日寝れば良くなると思ったのに、
疲れてて免疫力が落ちてたのかな‥‥


風邪薬は飲んできたし、午前だけでも
頑張ったら早退させてもらおう‥‥。
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