それでも、あなたを愛してる。【終】


─翌朝。

起きて、リビングに行くと、身なりを整えているお兄ちゃんがいた。

「お兄ちゃん?どこか行くの?」

「うん。このマンションを用意してくれた人とちょっと約束があってね」

「そうなんだ……お礼を言わなきゃね」

冷蔵庫を開けて、お水を取り出す。
長い間、現実時間で何も食べてなかった弊害か、戻ってきた依月の身体はかなり細くなっていた。

現実時間約3年。その間、飲まず食わずだったにもかかわらず、こちらの世界でまだ呼吸ができているのは奇跡に近いと思う。

喉を物が通る感覚が気持ち悪く、今は軽いものから少しずつ食べているが、兄はかなりの心配性で。

「俺は出掛けてくるけど、依月は休んでおいてね。冷蔵庫にご飯は用意してあるから、俺が帰らなくても、必ず決めた時間に食べること。あと、外は危ないから出ちゃダメだよ」

「ん……私は行かなくていいの?」

「良いよ。疲れているだろうし、休んどきな」

ぽんぽんと頭を撫でられて、依月は微笑む。

「ありがとう」

「どういたしまして」

お兄ちゃんを見送って、冷蔵庫を再度覗くと、本当に何食分か分からないくらい作ってあって、依月は、適当に一食を手に取る。

それをレンジに入れて、兄の言葉を反芻した。

「『外には出ちゃダメ』か……」

レンジが終わるまで。
そう思いながら、キッチンに座り込む。

両膝を抱えるように座り込み、膝のところに自分の顔を預けて、依月は。

「お兄ちゃん、契と同じことを言うんだから… 」

ひとりぼっちのマンションは広く、静かだ。

「…………契」

ひとりは嫌いだ。余計なことを考えるから。
ひとりは嫌いだ。余計なことを思い出すから。
ひとりは嫌いだ。感情が渦を巻くから。
ひとりは嫌いだ。……涙が止まらなくなるから。

依月はひとり、頬を濡らしながら、目を閉じた。

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