それでも、あなたを愛してる。【終】
「─俺がひとりになるのを待っていたんですか?お義兄さん」
契がそう言うと、彼は目を見開いた。
「千景達からメールがたった今来ました。俺に会いたいと言う人が来ているから、人払いして、この部屋で待っておくように、と」
今日もまた、彩蝶の心が壊れないように、そして、現在、四季の家が抱えている問題を共有するために、定期的に開いている集まり─という名の遊び─が、今回は朱雀宮家で開催されていた。
千景達に指定されたのは、実家に帰ってきた時、よく、依月と寛いでいた契の自室。
そこに訪ねてきた彼は、何も知らなければ気づけないほど、皇の姿そのままだった。
「……もしかして、今日、皇くんに会ってる?」
「と言うより、朝から恋人とデートです」
「わっ、やらかした。でも、君に近付くのに他の姿を借りるのも……」
気にするところはそこなのか。
俯いて考え込む姿、何となく、ペースが独特なところが依月に似ていて、契は笑ってしまう。
「─まぁ、お話しましょう。とりあえず、座ってください。氷室悠生さん」
「……っ!?」
名前を呼ぶと、彼は勢いよく顔を上げ、「どうして」と、か細い声で呟いた。
同時に変身が解け、髪の長い黒髪の青年が現れた。長い髪をひとつにまとめ、背中に流している彼の動揺している姿は依月に似ていて、ああ、本当に兄妹なんだな、と思わせる。
「すみません。勝手に」
「誰に、聞いたの」
「ユエが呼び出した、息子?に……」
「ルナ達か〜!」
あちゃーと、頭を押さえる彼。
「ユエの召喚、あいつらは反応するのか……そうか……綴、ブチギレてるよな……帰りたくねぇ……美言がどうにかしてくれねぇかなぁ……」
ブツブツ呟いたあと、また勢い良く顔を上げて、
「バレてるなら、仕方ないね」
と、笑った。悪戯っ子が浮かべるような笑み。
どこか少年らしさを思わせる彼は、
「初めまして。改めまして、氷室悠生です。年齢は多分、生きてれば、君より少し上。依月は実の妹で、暫く預からせてもらったよ」
にこにこ笑いながら、契の肩をぽんぽんと叩いた。ぽんぽんと叩いて─……。