それでも、あなたを愛してる。【終】
「ね、契もそう思うでしょ?」
「ん?」
何も聞いてなかった。でも、翠はそんな契に気付かず、雑誌を見せてくる。
彩蝶におすすめのドレスらしい。
翠はにこにこで、彩蝶は困り顔。
見ると、それは裾が濃い青色で、上に行くにつれ、透き通った青になっていくものだった。
ふわりと腰周りを包むのは、透けた白の花の刺繍が入った美しいシースルー生地。
キラキラと宝石のような輝きを放つそれは目を引き、まるで、海の表面のような。
「……綺麗だな」
「だよね!?」
「でも、私には……」
「絶対似合うってば」
「……そういう翠はどんなやつを選んでるの?」
翠の強引さは相変わらず。彩蝶はあからさまに話を逸らし、翠はそんな彩蝶ににこーっと笑う。
「凛と同じやつだよ。凛は私が選んだものなら何でも良いって言うから、ここぞとばかりに私の趣味で選ぶつもり。契も落ち着いた色選んでるし、落ち着いた色味で選ぶの〜!」
とても身体が弱く、すぐに寝込んでしまう体質とは思えないくらい、元気いっぱいな翠。
「だから、ねっ、彩蝶はこれ!」
……全然、逸らせていないようである。
助けを求めるようにみてくる彩蝶に、契は微笑んで。
「覚悟決めたら?」
「ちょっ、契まで……」
「似合うよ。それに、これにも男性用がある」
「あるけど……私、結婚はしないよ?何より、契が着るわけじゃないでしょう」
「もちろん。そんなことしたら、俺と結婚させられるよ?」
「嫌だよ。他に想う相手がいる人と、嘘でもそんなフリしたくないし。……本当に、結婚なんて……」
はぁ、と、深いため息をつく彩蝶。
「大丈夫。そんなことにならないよう、俺がエスコートするんでしょ?俺はいつも通りのスーツで行くし、そういう意味には見られないよ。彩蝶だっていつも着物なんだから、気分転換に」
「気分転換って……でも、契、それ、依月のじゃないの?」
「……」
「一応、四ノ宮の当主だから。貴方が何を企んでいるのか、大体、招待客から察しているわ。依月…って、会ったことないから、失礼ね。依月さんを、呼んでるんじゃないの?帰ってきてるんでしょう」
翠が向こうで1人楽しそうなのをいいことに、結構突っ込んでくる彩蝶の表情は、“心配”。
多分、契と依月の仲睦まじさを最近、色んな人から聞いていると言っていたことが原因だろう。