それでも、あなたを愛してる。【終】



「私達は多分、転機を迎える世代なの。だからこそ、大きなことを沢山求められる。貴女も幼い頃から多くの変化を、喪失を味わってきた側の子」

生まれた瞬間から、彩蝶には両親がいなかった。
正確に言えば、愛してくれる、か。

彼女が名前を得たのも、雪城家に向かってからだ。

「私達はね、足元を掬われやすい立場」

「……」

「優しい人から、強い人から、賢い人から、この世界では潰されていく。貴女は私達に隠れて、色々とやっているようだけど……全てに責任を持とうとしなくても、私達はそこまで弱くないわ」

翠はそう言いながら、彩蝶の頭を撫でた。

「喪うのは、怖いわよね。諦めるのは楽だけど、とても辛い。貴女は貴女が思い描いていた未来があって、それを私達が断ち切った。恨んでもいいのに、貴女は笑って、『友達になって』なんて。恨んでもいいの、泣いていいの。約束するわ。契約だって結びましょう。貴女より先に死なないって……否、私は身体が色々とボロボロだから難しいかもしれないけど、貴女を最期のひとりにはしないって誓うから、他の皆に誓わせるから、自分を責めすぎるのはやめなさい」

優しく頬を撫でられた彩蝶は、目を瞬かせて、そして、数回の瞬きの後、ボロボロと泣き出した。

「─翠、彩蝶は何を悪さしてるんだ?」

「あら。フフッ、ちょっと洗脳?みたいなことをしているみたいなのよ。あれは自分の精神にかなりの負担がかかるから、やめさせなきゃ〜って思ってたのよ」

「ふ〜ん。氷見には?」

「そんなに大きなことは今はまだしていないみたいだけど、氷室家が滅んだあの夜の証拠を掴むために、動く準備をしているんじゃないかしら?」

翠の言葉に肩を震わせる辺り、図星なのだろう。
昔からだが、にこにこと笑って、俺達が知らない情報をペラぺラと口にする翠は底が知れない。

まぁ、何はともあれ、秋は、桔梗家は、この先暫く安泰であろう。

大きな声、軽い足取り、人の話を聞かないとことか、一見、子どもっぽいかと思えば、急に大人の女性となり、冷静な判断をする彼女。

当主夫人としてはあまりにも出来すぎている彼女は、教育の中で祖母に怒られたことはないらしい。四季の家の中で生きていくにはあまりにも完璧な立ち振る舞いを見ていると、本当に一般人出身かと疑心暗鬼になりそうだが、やっぱりこれも生まれ持ったものなのだろう。

─そして、幼なじみとして言うならば、その振る舞いが彼女の罠だということもよく知っている。
彼女のことを事前に調べに来る外部は勿論、彼女を見ると、彼女を侮るのだ。

あまりにも幼い行動に変な勘違いをし、妄想をし、行動を起こす。
そして、彼女はその瞬間を見逃さず、昔から悪人を一網打尽にしていた。

その一面をまだ知らない彩蝶からすれば、今の翠は別人に見えてしまうことだろう。

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