それでも、あなたを愛してる。【終】
─氷室悠生、12歳。
『彩蝶〜?』
『あ、悠生!』
『一緒に勉強しない?』
『する!』
気付けば、出会いからかなりの時間が経っていた。
彩蝶は家の居心地の悪さから、常に氷室家で過ごしており、悠生とも仲が良かった。
『ねぇ、悠生』
『ん?』
『悠生は、結婚ってするの?』
『んー、まぁ、いつかは?この家を継ぐのは僕の役目だし、まだ12歳だからちゃんと考えたことは無いけど、両親のような関係は憧れてる』
『そうなんだ』
『それに、妹も産まれるしね』
『あと少しだよね。おば様、元気?』
『うん。どっちかって言うと、お父さんの方がハラハラしてると言うか……』
『アハハッ、想像できる』
『でしょ?彩蝶が最近遊びに来なくて、寂しがってたから。今日は泊まって行ったら?』
『でも、大変な時期だし……』
『良いんだよ。─で?』
『へ?』
『何で、まだ10歳の彩蝶が、結婚なんて気にしているの?御両親に何か言われた?』
悠生の視界に映るのは、何かを隠そうとして、でも、悩んで。瞳を揺らす、まだ小さな女の子。
『……お父さんは私に興味が無いわ。お母様は、お父さんが他の女の人に子どもを産ませていたことに気付いてからはずっと、おかしくて』
『……』
『使用人達の話だとね、四季の家に属する家は宗家分家問わず、条件を満たしている家の庭には『時の泉』があるんだって。創世神様が遺されたものらしいの。運が悪かったら溺死だけど、もしも成功すれば、時間を超えられるんだって』
『へぇ……?』
『その中にね、お母様、赤ちゃんを投げ入れたらしいの。その話を聞いた時、ゾッとした。それからというもの、我が家では変なことばっかり。呪いって言われてるわ。それでね、生贄制度を復活するべきじゃないかとか、お父様を廃して、私の未来の伴侶が代理で家を治めるとか、色んな話が出てて』
彩蝶の声は、震えていた。
助けを求める10歳の少女には、全てが重い。
悠生が抱き締めると、少女はしがみついた。