それでも、あなたを愛してる。【終】
『……怖いの』
『うん』
『助けて、悠生……』
『うん。わかった』
─その夜。彩蝶が眠りについた後。
両親に直談判した悠生の一存で、彩蝶との婚約が成立した。彩蝶の両親が物言わぬ、言い方を改めなければ、精神的に狂ってしまっている現状において、冬の筆頭分家である氷室家に逆らえる人々はおらず、特に障害は無かった。
そして、彩蝶に抱いている淡い感情を恋心とした悠生は一層、彼女を大切にしたし、彼女が傷つくものは全て排除するために奔走した。
家同士の関係を良好に築く為にも、学業と平行し、幼い頃から秀才と呼ばれた面を全面的に発揮していたため、誰も婚約に異を唱えることなどできず、未来は明るいと思われたが─……。
その矢先、柊紫が亡くなったことで、柊家の当主の座が空席となってしまった。
紫の実兄弟は悠生の父親である叶と、冬の分家・椿家の令嬢と結婚した三男だけ。
必然的に、家督は側室の子に移ったが、欲が無い次男と三男は特に抗議することはなかった。
しかし、それが誤りだったのだろう。
側室の意思で交流ができなかった腹違いの兄弟が、母親である側室のマリオネットになっている事実を知らず、彼らは放置してしまった。
腹違いの兄弟は優秀だと聞いていたため、彼が統治において、自分達の存在がプレッシャーにならないように、と、配慮した結果だった。
─そして、その配慮は最悪の形で、実を結ぶ。
悠生に妹が生まれて、1ヶ月経ったくらいの夜。
『!?』
大きな物音に目覚め、両親の部屋に向かった悠生の視界に広がるのは、血だらけの両親。
『な、なに……』
がたがたと震える身体を、力を込めて押さえていると、
『逃げなさいっ、悠生!』
父親に、初めて怒鳴られる。
父親の手元は光っていて、その先には産まれたばかりの妹が─……。