それでも、あなたを愛してる。【終】



「─ならば、これは、誰だ?」

「誰って?」

「ティエは虐待されながら育っていた、四季の家の関係者と聞いた。じゃあ、俺は?俺はなんだ。ティエは人間として、虐待されて生きてきた記憶があった上での目覚めだった。その記憶すらない俺は、この身体は何なんだ?」

─ユエの困惑は、理解できる気がした。
だって、ユエはもう成人している。

一時期、ティエと閉じ込められていた時期があると考えても……。

「ーああ。そっか。そうだった」

悠生は一瞬、何を言われたのか分からないという顔をしたが、すぐに手を叩き、

「ユエ、君の身体はね、絢人の祖母の身内によって殺された、俺達の叔父さん。若い頃に亡くなったんだけど、受け入れられなかった祖父母が泉に落としたんだ。その結果、叔父さんの肉体はあの空間に辿り着いた。生死も凌駕するあの空間だから、ちゃんと守られたまま……程良いところで君をその肉体へ迎え入れた。非道だと思うだろうけど、倫理観が欠如してるかもだけど、これは叔父さん自身が『お父さんや兄さんの役に立てて』と願って亡くなり、家族はその死を受け入れられなかったという話。だから、大切にしてね」

と、微笑んだ。
ユエは勿論、困惑を隠せない。

「いやいやいや、大切にって……」

「大丈夫。ユエがユエである限り、その肉体はユエの思うまま。長い間時間とったし、適合してると思うし……元々、神力が強い人だったらしいから、ちょうど良いと思うんだけど」

「まぁ、たしかに不便はないが」

「うん。じゃあ、そのまま使い続けてよ。叔父さん、喜ぶと思う」

「本当に……?」

「本当だよ」

「会ったことあるのか?」

「そりゃもちろん。調律者だよ、俺」

運命を渡り歩いていた悠生の言葉がイマイチ腑に落ちないらしい。
夜霧や朝霧も驚きを隠せず、口をだす。

「じゃあ、その叔父の御霊は何処へ」

「輪廻に還ったわけ?」

人間側である契たちはその成り行きを見守るだけだが、神様に近い彼らは無視できず、興味津々。

「輪廻というか、もう一度、四季の家のどっかに生まれて、今度こそ自分の力で生きてみたいという要望から、空間内で一緒に生活してるよ。依月と特に仲良しでね、まぁ、姪に当たるから……それに、持つ神力の量が近かったからね」

「依月と近いなら、かなり強いな……それだけ強ければ、自分の身くらい守れただろうに」

「うん。傍にいればね」

「傍?」

「うん。叔父さん、自分の神力を実体化して、自分の分身として使っていたんだ。そして同時に、自分の中のからっぽを埋めたくて、いつもひとりで、どこか物悲しい人だったんだけど」

悠生は紙に彼の名前を書きながら、微笑む。

「結局見つけられなくて、それでいて兄弟の中ではいちばん強くて、人を信じられなかったけど、その中でお兄ちゃん達は大切にしてて。……その日は、自分のお兄さん夫婦の護衛として半身はついていって、抵抗できなかったとかなんとか。今話しながら思ったんだけど、もしかしたら、その時、依月がお腹にいたはずだから、その半身の獣が依月の一部になったのかもしれない」

そう言って書き出された名前は、【結(ムスブ)】。


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