それでも、あなたを愛してる。【終】



「過去は未来を変えるからね。だから、その危険を回避する為、彼は君に話さなかったんだと思うよ。何が禁忌なのか、彼には計り知れないだろうし……何より、人間の身であの時代、四季を生き抜く道を示す“案内人”として、彼は活躍して、その後は美言に全てを譲って、こちらに戻ってきたはず」

「はず?」

「うん。聞いただけだから。詳しい話なら、また今度、ちゃんと裁定者にでも─……「待て」」

悠生の話に口を挟んだのは、ユエだった。
ずっと何かを考え込んでいたユエはジッと、悠生を見て、そして。

「─、お前、何人目だ。悠生」

悠生の顎を持ち上げ、その瞳を覗き込む。
悠生は柔らかな笑みを浮かべたまま、その手には家系図。

「確かに、運命は繋がる。時の輪だって。さっき、お前が話した存在が消えていくループも、実際にある事だ。おかしいことじゃない。でも、あまりにも関係者が多すぎる。同時に、あまりにもお前の話し方が不自然だ。曖昧で、伝聞で、自らの経験を交えているのは事実だろうが、何人いる。お前の中に」

ユエの怒涛の確認に、悠生はフッ、と、笑みをこぼす。そして。

「やっぱり、創世神様だねぇ」と。

「─からかってんのか」

「ううん。でも、君を目覚めさせたのは俺だよ。そして、依月をさらって、お世話?したのも俺。でもね、その他は正直、朧気なんだ。だって、他の神様が過去を変える度、俺の記憶もリセットされていたんだもん」

「……」

何気ないことのように言って笑っているが、変なことを言っている自覚はあるのだろうか。

「……それで、精神は」

皇が震える声で尋ねるけど、本人はケロッとした顔で、

「それが、なんともないんだよねぇ……多分、両手両足指じゃ足りない回数、過去は変わってる。俺が過去に行って、綴に役目を与えて救ったことは本当。その後に、別の創世神の一部である守人が自分の眷属にしたことはこの間初めて知ったけど、創世神の始まりなんて、しょっちゅう変わる神話、全然追いつけてないよ。でも、特変があるわけじゃないし」

「でもっ、その度に頭が」

「そうだね。急に知らない記憶が流れ込んできて、頭の中は埋め尽くされるよ」

「っ、頭、おかしくなりませんか。気が狂いそうになったり、そんなことは─……」

「それが無いんだよね。驚く程に。『あっ、そうなんだ〜』って感じで、俺は完結する。正しく『化け物』と呼ばれていたことを実感してる」

そう言いながら、彩蝶に寄りかかる悠生。
悠生の告白を黙って見ていたユエは、深いため息。

何も言えない契を含む、凛や千景達。

「とんでもねぇ、精神力だな」と呆れた夜霧を見て、朝霧は納得したように頷いた。

「だから、悪神を心臓に封じ込めたんですね。それだけの精神力をお持ちだからこそ」

「ん〜精神力かどうかはよく分からないけど、普通は気が狂うらしいから、多分、そうなんだろうね?ユエの言う、何人目って言うのは、リセットされた回数かな?そんなの、覚えてないけど」

「……」

「だから、聞いていた内容と違うと思ったら、最新のが真実だと思って聞いていて。俺はその全てを覚えていられない。聞けば覚えておけるけど、体感はできない。だって、中途半端に人間だから。気付けない。気づくことが出来るのは、美言や裁定者、光と闇の神様達だけ。今のユエですら、気付けないよ。多分、世界の時が何かしら動いた気配は感じるかもしれないけど、その身体じゃ無理だ」

「……お前が、目覚めさせたと言ったな」

「うん」

悠生はにっこり笑って、ユエを見る。
ユエは己の胸元に目を添え、悠生を見た。


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