それでも、あなたを愛してる。【終】
第三章☪ 貴方が幸せならば
無知の幸福
『ん……』
柔らかな、白いシーツ。ふわふわの枕。
遠くから聞こえてくる、洗濯機の音。
ゆっくりと身体を起こすと、鼻を擽る珈琲の香り。
『……』
シンプルで、物が少ない室内。
いつの間にか着せられた大きなTシャツから香る、大好きな匂い。
少し冷めた隣に手を這わせると、指先に引っかかったのは、契のカーディガン。それを抱き締めて、もう一度、依月はベッドに潜り込んだ。
カーテンの隙間から差し込む陽の光は眩しくて、静かな空間の中、遠くから聞こえてくる鳥の鳴き声は依月を夢心地へ誘う。
『……へへ』
あったかくて、安心する匂いに、彼に抱き締められているような、そんな感覚に酔いながら、膝を抱え込むように丸まる。
ひとりで幸せな朝を過ごしていると、
『こら。なに可愛いことをしてるの?』
ベッドが軋む音がして、顔を出すと。
『おはよ、依月』
契がそう言いながら、優しく頬を撫でられる。
『おはよ〜』
幸せな時間。夢に酔える時間。
……私が、私でいられる時間。
『ほら、カーディガン返して』
『え……』
取り上げられて、ちょっと残念に思っていると。
『─ほら、朝ごはん出来たよ』
そう言いながら、キスをくれる。
優しい優しい婚約者。
私には勿体ない人。
いっぱいいっぱい、愛してくれる人。
幸せを教えてくれた人。
言葉をくれて、居場所をくれた人。
─……ずっと、一緒にいたかった人。