それでも、あなたを愛してる。【終】
「………………馬鹿じゃないの」
四季の中でもいちばん汚れきっていた冬の中で、珍しい、相思相愛の夫婦だった。
そんな両親から、依月は産まれたのだ。
お母さんらしき人は大きなお腹を、依月の兄だと思う人と撫でながら、子守唄を歌っていた。
暖かい光景。─依月が家族から欲しかったもの。
『お父さんっ、妹の名前!』
『ああ、今、63個まで絞って……』
『おおいよっ!』
─そんな会話と笑顔に溢れていた、暖かな。
「……氷見が起こしたあの事件は、彼らの方が上手で、司宮家初代が作った【契約】を利用して、四季の家全員の言葉を封じた。どんなに話したくても、記したくても、出来ないようにした。だから、朱雀宮の両親が君に伝えなかったのではなく、伝えられなかったことは理解しておいてくれ」
(…………そんなことは、どうでもいい)
─そう。そんなことは、どうでも良かった。
本当に心からどうでも良くて、あの二人は本当の娘のようにいっぱい愛して、可愛がってくれた。
ふたりの息子が契だと言われて、納得できるくらい、あったかくて優しくて、大好きな人たち。
『貴女が産まれてくることを、皆、楽しみにしていたのよ』
あの言葉は、依月を気遣った嘘じゃなかった。
『めちゃくちゃ親バカだったもんなぁ。名前もめちゃくちゃ悩んでいて……うん、良い名前』
─本当に、嘘じゃなかった。
心から依月を待っていた家族は確かに存在していて、そんな家族を、彼らは依月から奪ったのだ。