それでも、あなたを愛してる。【終】
「始祖の最愛は、帰ってきたの」
「……とある女の子が、代わりに時の輪に身を投げ込んで、今は司宮家の屋敷の奥で静かに生活していると、報告は受けているよ」
「そっか……」
依月は漸く、涙を拭った。
頬が少し乾燥して、ピリピリしている。
けど、そんなこともどうでも良くなるくらい、頭の中はぐるぐるしていて、苦しかった。
本物とか、偽物とか、そんなことどうでも良い。
そんなことはどうでもいいから、返して欲しい。
家族を、確かにあったあの日々を。
お風呂もご飯もなく、暴力に苦しんで、死んだように生きてきたあの日々は、最初から彼らに奪われたことで始まったのだと知ってしまった今、現実に戻ったところで、冷静に生きていける自信が無い。
「………………刹那」
「なあに、依月」
「刹那は、“未来”は視える……?」
あの世界で生きていけないなら、
「……どうして?」
「悪用しようってわけじゃないの。私、ずっと、ここにはいられないでしょう」
「そうだね。君は神様とかではないから、このままここに居続けるのはまた、何かを狂わせる歯車になってしまうかもしれない。若しくは、永遠に孤独に─……」
この世界でも生き続けることが出来ないなら、依月が選びたい道はひとつだけ。
「【冬の宮】─つまり、今代の【冬の家の生贄】である私は、この世界を狂わせる。あなたに最初に言われた、言葉の意味を理解した。【生贄】として利用されて、私が全てを知ってしまった時、私は確かに我慢できなかったと思ったわ」
自分を中心に広がった氷の世界。
─ここが現実だったなら、依月は全てを滅ぼした。
「だから、教えて」
「え?」
「もう、帰れないと思うから……だから、教えて」
依月はまた、耐えきれなかった。
─溢れる涙を拭うことないまま。
「契は、未来で幸せそうに笑ってる?」
最愛のあなたが未来で幸せなら、
私はもう、それだけでいい。