それでも、あなたを愛してる。【終】
『朝霧......あとは、お願い、ね』
─それから数ヶ月後、彼女は亡くなった。
一人娘を産み落とし、その後、静かに。
看取りは朝霧だけだった。
小さな産声が、離れでは響いていた。
『どーすんの、それ』
長い間、共に時間を潰してきた奴は赤ん坊を見て、
『育てんの?』
無責任に、そう言いながら笑っていた。
『─彩花の、大切な娘だ』
『うん。でも、俺達には育てられない。同じ時間を生きてあげられない化け物なんだから』
奴の言うことは最もだったが、それにムキになり、朝霧は赤ん坊─いろはを育てた。
彩花によく似た彼女は毎日楽しそうで、笑顔だった。
狭い世界の中で育てていたが、それでも、誰にでも人懐っこかった彼女は愛された。
─それが、正妻の逆鱗に触れたのだろう。
当主が、いろはを見て、思い出したから。
心を壊し、病んで、閉じ籠っていた当主はいろはを見て、彩花を思い出し、正妻に悟らせてしまった。─数年前に、当主と彩花にあった“過ち”を。
何も知らないいろはは、正妻の甥と仲良しで、正妻の兄にも可愛がられていた。
正妻は、
『私ですら愛されなかったのにっ!!!!』
と、叫んでいたことを覚えている。
いろはは何も知らぬまま、何も覚えぬまま、
何かを察する間も無く、正妻に泉に投げられた。
─“時の泉に”
命令を下され、身体拘束を受け、動けなくなった朝霧には何も出来ず、朝霧が苦しんでいたら、同じように泣き叫び、怒った正妻の甥─皇(コウ)くんが、朝霧に約束をくれた。
だから、加護を与えたのだ。
何度でも、“夜明け”を眺められるように。
朝霧は奴─夜霧と一緒に、皇に“管理者”の権限を与えた。
これまで生きてきた時間が長すぎて、一方的な契約の山に、それによる拘束に、動けなくなっていた朝霧の代わりに、皇は何度も繰り返した。