それでも、あなたを愛してる。【終】
『そんなの......もう手遅れよ......』
『彩花?』
『手遅れなの......』
苦しそうな彩花は、今にも消えそうだった。
娘のように可愛がってきた存在が、ここまで追い詰められて苦しんでいる姿は見ていられなくて、朝霧は彼女を起き上がらせて、抱き締めた。
恋とか愛とか、そんなものは分からない。
少なくとも、何百年も生きてきた中で経験もないし、彼女に感じていたのも庇護愛だ。
彩花もまた、父親の姿を朝霧に見ていた。
この家に両親を奪われた彼女にとって、かつての初恋の人は憎悪の相手となっていたはずだった。
『お願い......“例え何があっても、この子を守って”』
そう言って、彩花はお腹をさすった。
─朝霧がいない間に、何が起こったのかは明白だった。
朝霧は生まれて初めて、怒りで脳を焼かれるような感覚に陥ったし、その怒りのあまりに訪ねた当主は狂ったように泣いていた。
妊娠なんて、彩花にとっては自殺行為だ。
ギリギリで生きている彼女に、無体を働いた男は消すべきだった。なのに。
『違う違う違う違う!こんなのは違う!彩花っ、彩花を傷つけたいわけじゃっ、あんなことしてまでっ、手に入れたかったわけじゃ......っ!!!』
『あら、あなたが望んだことじゃない』
─悪魔が、囁く。彼の耳元で、笑いながら。
『だから、“お母様”が叶えてあげたんでしょう?』
腐り切った世界で、腐れ切った人間の間で、生まれ育つには純粋すぎたのだ。
純粋すぎたから、壊れてしまった。
壊れて、壊れて、壊れて。
─朝霧は人間じゃない。
だから、人間の気持ちはわからない。
人間の理は変えるべきじゃなくて、
愛で、理を曲げるわけにもいかなくて。
ただ、壊れていくのを、眺めていた。