それでも、あなたを愛してる。【終】
「巻物、見たことあるの?いろは」
「うん。違う時代で、だけど」
「違う時代?」
「うん。それこそ、ずっと時の泉を彷徨っていた時かも。右も左も帰り方も分からないから、何故か使えた力を披露して、匿ってもらってたんだよね」
「力」
「そう。花を、こんな感じで……」
いろははそう言いながら、自身の手のひらの上に息をふきかけた。
すると、その手のひらから生まれるように、花が咲き舞う。
「なるほど。いろはは、春特化型か」
「そうみたい。こっちでお姉ちゃんが教えてくれたんだけど、四ノ宮家に生まれる力を持つものって、四季のどれかなんだね」
「春というのは、いろはらしいね」
「えへへ」
……仲良さそうにイチャイチャ(?)し始めた、ふたりは置いておいて。
契はまだ少し顔色が悪いユエを見た。
「─すまん、契」
すると、ユエは深く頭を下げてきた。
「全部、俺のせいだな。調律者とやらの言葉で、どんどん眠っていた記憶が蘇ってくる。……目を逸らすな、と、調律者は言いたいんだろうな」
顔を覆い、深いため息を零す。
「……でも、最初に裏切ったのは人間だ」
それを見て、契は自然と口をついて出た。
その言葉は本心で、偽りなどではなかった。
「俺達は人間であり、神の力を借りる立場だ。だからこそ、断言する。先に神様を裏切ったのは、ユエの大切なものを奪ったのは、人間だった。人間がいなければ、ティエは死ななかった。人間が求めなければ、ティエは与えなかった。なぜなら、ティエが自分の命を散らしてでも人間に与え続けたのは、同じことをユエがティエにしていたからだ。それだけ、ユエが大切に愛してきたから。その証にすぎない。それを利用して、二人の世界を壊したのは人間側」
「でも、依月を取り戻すための手伝いすら、【中途半端】な俺にはできない」
「神様に出来ないかもしれないけど、人間にできないとは言ってない。─な、皇」
「はい。もっとも、何かしらの代償はあるかもしれませんが」
「問題ない。その為に、分家がいる」
契にもしもの事があっても、三つの分家から後継が選ばれる。
特に、第一分家は昔、当主夫妻が事故で亡くなったことで、今や名前だけの家だが、遺された一人娘はとっても優秀だと聞いている。
─契約のせいで手を出せないが、彼女が現在、最悪な環境に身を置いている事実もあるし、これがきっかけで、契約を破壊する方法を学べるかもしれない。
「時の泉は、片付けなくていいよ。多分、彩蝶が上手く利用するだろうし、自然と消えるよ」
千陽がのほほーんと言ったタイミングで、
「─……うん、ゴリゴリに利用する」
勢いよく、礼儀などなく、襖が開いた。
「彩蝶」
「あーっ、つっかれた!」
ドカッ、と、いろはの傍に座り込んだ彩蝶は、いろはを見て笑い、無言で頭を撫で始める。