それでも、あなたを愛してる。【終】


「『愛を知り、自らが創り出した世界を知っていく中で、ユエは絶望を知った。ティエは自分が与えなければ、何も知ることが出来ない存在だったから。愛を求めたところで、何も返ってこない。

何かを求めれば、ティエは応える。でもそれは、ユエが植え付けたものに過ぎない。ティエと生きていくために、自らが生み出した世界を変えたのに。

その結果、多くの命が喪われたのに。それも全て無意味なことだったのだと気付いてしまったユエは、ティエから離れる選択をした。

そして、ティエが幸せであれるように、自らが創り出した全ての祝福を、ティエに与えた。ティエはユエと離れた後、ユエに与えられたように人間と接し、自分で色々と考えて頑張った。
けど、ティエは加減を知らない、与えすぎる神様だった。だから、その結果、自らの祝福を分け与えすぎた人々が産まれた。

仕方がないから、ユエはひとつにまとめたね。
そして、ひとつの家が生まれた。
それが、四季の家。時代と共に複数の家に分裂して、別れてしまったけど......ユエがその存在を忘れてしまうほどの時が流れたある日、ティエは四季の家の人々に食べられた』」

─これはきっと、神話のその先の話。

「『力が強くなるから、人間の世界で力を持てるから、特別になれるから。そんな最期でも、消滅する瞬間まで、ティエは笑っていた。ユエを想って、幸せそうに食べられた。与えられてきたティエにとって、それは最大の愛だったから。

でも、ユエは笑えなかった。この世界を呪った。創世神としてでも耐えられるものではなく、世界は滅びの一途を辿りかけた時、ひとりの人間がユエの前に現れた。四季の家の中で産まれた、ティエの祝福をいちばん強くもった人間─これが、皇の家、司宮の始祖だ』」

ティエは無言で、ユエの正面に回り込み、ユエを抱き締めた。
ユエは何も言わず、ティエを抱き締める。

「……皇、まだ、あるの?ユエ、もうキツそう」

ティエからの問い掛けに、皇は顔を曇らせる。

「実は、調律者には『ユエには全て思い出させて』と言われているんです。そして、この記憶を授けられた。調律者は『俺はユエやティエみたいに優しくなれないし、優しさだけで世界を見守るなんて役目はしたくないし、出来ないから』と」

皇が紡いだ言葉を聞いたユエは、ティエを力強く抱き締めて、

「─……あー、ハハッ、昔みたいに馬鹿に力が宿らなくてよかったと言うべきか、?凛のおかげで前世を思い出したと言っても、そんな細かいことまでは......ああ、でも、そうだな。俺は確かに後始末をしていない。特に、時の泉を片付け損ねた」

何かピースがハマったのか、ユエは自嘲する。

「時の泉は、自然発生したものじゃないんだ?」

「それが、今思い出したけど、違うんだよなぁ......というか、四季の家に残っている歴史書は、その巻物はほとんどが嘘しか書いてない。椿家で見た巻物の内容と、今、皇が話した内容も全然違うだろ?」

「......確かに」

千陽の質問に頭痛そうに答えたユエ。
それを聞いて、頷くいろは。



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