君の隣が、いちばん遠い


「……うん、なんか、タイミングが合わないっていうか。LINEで連絡とり合うくらいかな」

「そっか。あいつも忙しそうだもんね。塾と課題と……あと家のことも、まだ大変そう?」

「うん……。でも、頑張ってるよ」


本当はもっと会って話したい。

でも、わたしも彼も、いっぱいいっぱいだった。


──それでも、言葉を交わせばすぐに戻れる、そう信じたかった。



そんなある日。

午後のホームルームで、久遠先生がぽつりと口にした。


「人はな、自分の歩いた道しか、振り返ることはできないんだよ」


その言葉が、すっと胸の奥に入ってきた。

自分が決めて、歩いた道じゃなきゃ──振り返ったとき、納得なんてできない。


その日、家に帰ってから、わたしは授業ノートの隅に、先生の言葉を丁寧に書き写した。


《人は、自分の歩いた道しか振り返れない》


まるで、お守りみたいに。

何かに迷ったとき、これを見返せば、きっと前に進める気がする。





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