君の隣が、いちばん遠い
「佐倉さんって、こういうとこ、ちゃんとしてるよな」
その一言に、わたしの頬がかすかに熱を持つ。
“ちゃんとしている”。
自分がずっと、そうありたいと願っていたことを、誰かに言われたのは、初めてだった。
バイト先の文具店。
「いらっしゃいませ」
いつもの声。
落ち着いた照明の中、シャツの袖を整えてレジに立つ。
その日は、不思議と笑顔が自然に出ていた。
沙月さんがふいにわたしを見て言った。
「ひよりちゃん、今日ちょっと表情やわらかいね。いいことあった?」
「……別に、なにも」
そう返しながら、自分でも気づいていた。
今の笑顔が、無理していないことを。
翌日。
昼休み、わたしは教室を抜けて廊下の端に座っていた。
風が通る、静かな場所だ。
お弁当を開いて、一口ずつゆっくりと食べていると──
「……ここ、風通しいいな」