君の隣が、いちばん遠い


教室の片隅でプリントをまとめていたとき、彼がふいに声をかけてきた。


「リレー、大丈夫そう?」

「……うん。やる。がんばる」


目を合わせたのは、一瞬だった。

でも、彼の目には、なにかを伝えたそうな光が宿っている。

 

それ以上は何も言えず、わたしは廊下に出た。

壁にもたれて、胸に手を当てる。


「……“がんばる”って、ちゃんと聞こえたかな」


心の中でつぶやいた言葉が、想像よりも重たく響いた。

 



翌日。昼休み。

教室の隅で水を飲んでいると、また背後から女子の声が聞こえてきた。


「ねえ、最近ふたりで話してるの見た?」
「ひよりちゃんってさ、静かそうに見えて、意外と……」
「なんか、ちょっとびっくりするよねー」

 

わたしは、何も言わずに席を立った。

足音を立てず、ただ静かに廊下へ出る。


心がざわついていた。

まっすぐになれない、感情が暴れていた。


 
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