君の隣が、いちばん遠い
 

「大丈夫か?」


声をかけてきたのは、一ノ瀬くんだった。


わたしは、小さくうなずいたまま顔を上げることができなかった。


その瞬間、耳に入ってきた女子たちの声が、空気を変える。

 

「また佐倉さんじゃない?」
「最近、あのふたりよく話してない?」
「……ちょっとズルくない?」

 

──わたしの胸に、なにか冷たいものが落ちた。


一ノ瀬くんは、なにも悪くない。

なのに、自分が迷惑をかけているような気がした。

 

だから。

 

それから、少しだけ彼との距離を取るようにした。

 

午後、練習後の掲示板。

自分の名前がリレーの正式メンバーに記載されているのを見つけた。


「……え」


思わずこぼれた声は、小さくて、誰にも聞こえなかった。


その決定が誰によるものか──想像はついていた。


たぶん、一ノ瀬くんだ。

 
< 37 / 393 >

この作品をシェア

pagetop