君の隣が、いちばん遠い
「大丈夫か?」
声をかけてきたのは、一ノ瀬くんだった。
わたしは、小さくうなずいたまま顔を上げることができなかった。
その瞬間、耳に入ってきた女子たちの声が、空気を変える。
「また佐倉さんじゃない?」
「最近、あのふたりよく話してない?」
「……ちょっとズルくない?」
──わたしの胸に、なにか冷たいものが落ちた。
一ノ瀬くんは、なにも悪くない。
なのに、自分が迷惑をかけているような気がした。
だから。
それから、少しだけ彼との距離を取るようにした。
午後、練習後の掲示板。
自分の名前がリレーの正式メンバーに記載されているのを見つけた。
「……え」
思わずこぼれた声は、小さくて、誰にも聞こえなかった。
その決定が誰によるものか──想像はついていた。
たぶん、一ノ瀬くんだ。