君の隣が、いちばん遠い
携帯が鳴った。
『今、引っ越し終わった。駅からちょっと歩くけど、こっちも悪くないよ』
ひよりの口元が自然にゆるむ。
返信しようとしたそのとき、もう一通、追いLINEが届いた。
「近いうちに、そっちの部屋にも遊びに行っていい?」
それを読んだ瞬間。
なんでもないはずの文字が胸にあたたかく染みた。
「もちろん。むしろ早く来てほしいかも」
ほんのり頬が熱くなる。
一人になったはずの部屋の中なのに、その瞬間だけはひとりじゃなかった。
ダンボールの山を崩しながら、荷物を少しずつ棚に並べていく。
高校の時に使っていた文房具や、写真立て、マグカップ。
——あ、これ。
手に取ったのは、クリスマスに遥くんからもらった、あの色違いのマグカップだった。
淡いピンクと、くすんだブルー。
箱の中にふたつ揃っていたうちの、わたしの分。